心躍る世界を、渋谷から。

SHIBUYA × INTERVIEW

SHIBUYAから、世界に誇れる“メガクラブ”を――。この街で日本のサッカー界の未来を切り拓く。
小泉翔さん

株式会社PLAYNEW代表取締役CEO

SHIBUYAから、世界に誇れる“メガクラブ”を――。
この街で日本のサッカー界の未来を切り拓く。

プロフィール

SHIBUYA CITY FCを運営する株式会社PLAYNEW代表取締役CEO。1988年生まれ。物心が付いた頃にはボールを蹴っており、プロのサッカー選手を目指すも、大宮アルディージャのユースチームへの入団後に断念。立教大学に進学後、世界一周の旅で人生が変わった経験をもとに、若者に旅の魅力を伝える学生団体TABIPPOを設立。サイバーエージェント勤務を経て、2014年にTABIPPOを法人化。同年、草サッカークラブのTOKYO CITY F.Cの.立ち上げ期にチームに加入し、2018年にプレイヤーとしては引退したものの、2021年より株式会社PLAYNEWの代表取締役CEOに就任。

渋谷から、アジアを代表する“メガクラブ”になる――。そんな大きな目標を掲げて前進を続けるSHIBUYA CITY FC。一見夢物語のようだが、渋谷エリアを中心とした220社近くの企業スポンサーに支えられ、そのアグレッシブなプレースタイルに魅了されるファンも増え続けている。同クラブを運営する株式会社PLAYNEWの小泉翔代表取締役CEOは熱量あふれる言葉で、渋谷だからこそ実現しうるフットボールクラブの未来を語ってくれた。

草サッカーチームから、本気でJリーグを目指すセミプロクラブに成長

SHIBUYA CITY FCが目指すことをお話ください。

渋谷からJリーグを目指して、ゆくゆくはアジアを代表するメガクラブになることです。バルセロナやマンチェスター・シティなど、サッカーが根付いた国々の大都市にはコミュニティを熱狂させるフットボールクラブが必ず存在しますよね。渋谷は街そのものが世界的なブランドであり、外国人観光客の誰もが訪れるような魅力にあふれています。そこにとてつもなく強いフットボールクラブがあれば、この街の持つエネルギーや発信力とあいまってアジアで一番のメガクラブになれると確信しています。

具体的にはどのようなビジョンを描いているのでしょうか。

現在は、東京都社会人サッカーリーグ1部に所属しています。このカテゴリーはJ1から数えると7部に相当し、今後、関東2部、関東1部、JFLと、毎年カテゴリーを上げていけると、最短で4年後にJ3に昇格できることになります。ただ、カテゴリーを上げるには条件がかなり厳しいプレーオフを勝ち抜く必要があるんです。ここ2年間のリーグ戦は連続で突破しましたが、どちらもプレーオフを落としてしまって…。現実的には、J3昇格まで6年ほどの期間は要する可能性が高いと考えています。

チームの成り立ちは、同年代の仲間と始めた草サッカーでした。最初は遊びのつもりでしたが、渋谷区社会人サッカーリーグから段々と勝ち上がる中で、Jリーグの発足当初のように人々をワクワクさせるクラブを渋谷に生み出したいという思いが強まり、2019年に法人化して本格的な活動をスタートさせたんです。しばらくは仕事を掛け持ちするメンバーが週末のリーグ戦に臨んでいましたが、2022年に戸田和幸氏がテクニカルダイレクター兼コーチに就任するとともに、横浜FMや川崎フロンターレで活躍した田中裕介選手が加入。こうしてJリーグなどとのつながりが強まったことが転機となってスタッフや選手の強化が進み、今は練習に専念できるメンバーが集まるセミプロのクラブとして活動しています。

ホームスタジアム確保などの条件はどうクリアしていくのでしょうか。

確かに郊外に比べると、スタジアムやクラブハウスといったハード面の整備の難しさがあり、だからこそ、これまで東京23区内にはJリーグのクラブがなかったのでしょう。しかし、日本のサッカー界としても都心を本拠地とするクラブを増やしたいというビジョンがあり、実際、2023年に特定のホームスタジアムを持たないクリアソン新宿にJ3のライセンスが交付されました。こうした“ヤドカリ方式”も念頭にありますが、この先、ライセンスの条件は変わる可能性もありますし、世界中の観光客に見に来てもらうという私たち自身のビジョンを達成するためにも、自前のスタジアムの確保は絶対に必要だと考えています。

2024年4月29日第5節、三菱養和サッカークラブとの一戦。先制ゴールを上げて、喜び合う選手同士。

2024シーズン初のホームゲームとなり、会場となった「渋谷区スポーツセンター」には多くの地元ファンが駆けつけ熱い声援を送った。2-0で見事勝利し、今シーズンも上位争いを繰り広げている。

サッカーのビジネスやエンタメとしての価値を高めたい

逆に渋谷だからこそ、「やりやすい」と感じているのはどのような点でしょうか。

ビジネスやエンターテインメントの価値の向上という側面では、やはり大きなアドバンテージがあると感じます。何より観客を集めやすいですし、街が持つ影響力や発信力も大きいので。いまSHIBUYA CITY FCは、220社ほどの企業にスポンサーに支えらえていますが、この数は社会人リーグの所属チームとしては異例の多さです。渋谷の企業の方々は、とても興味を持って応援してくださるんですよね。特に中小規模のベンチャー企業からは、「一緒に成長していきたい」「うちも5年後に上場していたいな」といった前向きな言葉をかけていただくことが少なくありません。渋谷には、何かに挑戦している人が多いからなのでしょうね。

他のクラブがやっていないことに新たに挑戦したいという気持ちから、年1回、渋谷の街をサッカーでハックする「football JAM」といったイベントも開催しています。このイベントでは、通りすがりの女子校生とおじいちゃんがサッカー対決をしているような光景に出合えます。スポンサーの方々も一緒になって、こんな企画を実現できるのも渋谷ならではといえるでしょう。

ブロックチェーン技術を利用したトークンプラットフォーム「FiNANCiE(フィナンシェ)」上で、トークンを発行したことも話題になりましたよね。

そうですね。私たちの存在価値は、アジアで一番のサッカークラブになることに加え、日本サッカー界をより良くするために渋谷から新しいチャレンジを続けることにあると、勝手に責任感を持って取り組んでいます(笑)。そう考えたとき、トークンの活用に新しいビジネスモデルの可能性を感じました。FiNANCiEによるトークン運用で大きな話題になったのは、サッカークラブとしてはSHIBUYA CITY FCが初めてで、その後、多くのJリーグのチームからも問い合わせをいただいています。こうした事例を横展開して日本のサッカー界全体のマーケットが盛り上がるとうれしいですね。

トークンの良さは、皆さんの応援をしたいという気持ちに対して目に見えるリターンを提供できることです。もともと応援してくれていた方々だけではなく、最初にトークンから入って「そのうち儲かるかもしれないから買って応援してみようかな」といった人たちにリーチできることも大きいと感じています。初期に400倍の価格に暴騰して驚いたこともありましたが、あくまでも一過性の動きで、いまは落ち着いた価格で推移しており、皆さんには「できるだけホールドしておいてくださいね。先の話になりますが、きっとお礼をお返ししますので」と伝えています。

毎年秋、渋谷ストリーム稲荷橋広場などを会場に開催する都市型サッカーフェス「FOOTBALL JAM」。リフティングやドリブル、ダンス要素を取り入れたアクロバティックな技術などを魅せる「フリースタイル」は、エンターテイメント性も高く、観客を大いに魅了する。

「蹴るのも見るのも遊ぶのも」をコンセプトにする「FOOTBALL JAM」では渋谷の街角も会場とし、1対1のストリートサッカー大会を開催。サッカー好きもボールを初めて蹴る人も分け隔てなく、身近に気軽にサッカーに触れ合う機会を提供する。

サッカーを通して渋谷の街から人々を“エンパワー”したい

もともと小泉さんご自身もプロのサッカー選手を目指されていたそうですね。

はい。1年のうち360日はサッカーをする子どもで、小学生や中学生の頃は全国大会に出たり県選抜に選ばれたりして、自分も周囲もプロになるものだと思っていました。ところが、高校に進んで大宮アルディージャのユースチームに入ってすぐ、周囲とのレベルの差を痛感してプロになるのを諦めてしまいました。いま思うと、サッカーのスキルよりも、そこで諦めずに頑張れるかどうかという気持ちの問題が大きかったのかもしれません。

大学時代は社会人関東1部リーグのチームでプレーしつつ、教職を取って将来は高校のサッカー部の監督にでもなるかと考えていたのですが、いざ就活を前にすると、それも本当にやりたいことではないと感じてしまって。それで1年間休学して世界中の人や文化に触れてみようと思い、半年間アメリカに留学して、残りの半年間は世界中を旅しました。

南米旅行時には初日、空港で預けた荷物が行方不明となるトラブルも。「何もない状態だったことで、地元の人々からたくさんの助けを受けた」といい、かえってかけがえのない経験ができたと思い出を振り返る。

海外でのどのような経験が現在の仕事や活動に生きていると感じますか。

アメリカ人の大学生は自分の考えをしっかりと持ち、人生を積極的に切り開こうとしているように見えました。その後、どの国を訪れても多くの人が自分の意思をオープンに表して生き生きと過ごしているように感じたんです。海外経験を通して日本が一番良い国だと改めて感じましたが、その一方で日本人はどうして自分の気持ちをストレートに行動につなげたり、もっと挑戦したりしないのだろうかという思いも強まりました。私自身、大学時代の前半は将来の目標を持てず、ぼんやりと過ごしてしまったという反省もあって…。こうした経験を通して、「自分が好きなことにとことん夢中になって生きていいんだ」と気付いたことが、その後の活動や仕事につながっていますね。

自分を大きく変えてくれた海外経験をほかの同世代の人たちにも経験してほしいと考え、帰国後は海外で出会った仲間とともに学生団体のTABIPPOの活動をスタート。企業など大人を巻き込みながら、旅をテーマにしたイベント運営など様々な事業にチャレンジしました。卒業後はサイバーエージェントに入社しましたが、もっと自分がやりたいことを探して1年間で退社し、2014年にTABIPPOを法人化。SHIBUYA CITY FCの前身となる草サッカーチームを作ったのもこの年でした。そのように現在にいたるまで一貫して、自分のやりたいことを追い求めています。

小泉CEOにとって、渋谷で働くことはどのような意味を持つのでしょうか。

学生時代にTABIPPOのメンバーと三軒茶屋のシェアハウスで住み始めてからは、ずっと渋谷を拠点に働いています。最初に渋谷を選んだのは、都内のいろいろな大学の学生が集まりやすいエリアだと思ったから。今も関わりの深い人は、みんな渋谷で仕事をして遊んでいるので、コミュニティの拠点としては本当にベストな街という感覚ですね。同世代の経営者などが渋谷に集まるのは、この街のエネルギーにひかれることが大きいと思います。そういう人たちに囲まれて働いていると、自分ももっとチャレンジをしたいという気持ちになりますね。

最後に、SHIBUYA CITY FCを応援している方々、そして未来のファンに向けてメッセージをお願いします。

もっと喜怒哀楽を表に出したり、自分のやりたいことに思い切り向かったりしてもいい。私たちはサッカーを通して多くの人々を“エンパワー”して、そのようにエネルギーがストレートに表出される未来を創り出したいと思っています。グラウンド内で目指しているのは、初めて観戦に訪れた人も興奮させられるようなアグレッシブでクリエイティブなサッカーです。渋谷の街に遊びに訪れたついでに、ぜひ一度、応援にいらっしゃってください!

取材・執筆:二宮良太 / 撮影:松葉理