心躍る世界を、渋谷から。

SHIBUYA × INTERVIEW

人と人をつなぐ「感動」を見つけ出し渋谷から世界中の人々の幸福を増幅していきたい
塚崎秀雄さん

東京カメラ部株式会社代表取締役社長

人と人をつなぐ「感動」を見つけ出し
渋谷から世界中の人々の幸福を増幅していきたい

プロフィール

1969年生まれ。東京証券取引所、カーニー(戦略コンサルティング)、ソニー(Walkman商品企画統括)を経て、2007年に独立。2012年に立ち上げた「東京カメラ部」が560万人のファンが集まる日本最大級の審査制投稿サイトへと成長。著書に『名画から学ぶ 写真の見方・撮り方』(翔泳社 )など。カリフォルニア大学バークレー校卒。

東京カメラ部

「いい写真が撮れたな」と思うと、誰かに見てもらいたいという気持ちが自然と湧きおこるもの。そんな人々の思いをとらえて、約560万人ものフォロワーを獲得したSNS写真コミュニティ「東京カメラ部」。カメラで「感動」の瞬間を切り取り発信することで、人と人をつなぎ、寛容で平和な世界を広げていきたい。そんな思いで東京カメラ部を立ち上げた代表取締役社長の塚崎秀雄さんは、創業時から渋谷に拠点を置き、クリエイターとともに世界に向けてポジティブなメッセージを発信し続けている。

感動共有が生む「寛容な世界」をSNSで実現したい

東京カメラ部がめざしていることをお話ください。

東京カメラ部は、誰でも自由に自分の写真や動画を投稿できるSNS写真コミュニティで、2012年に運用を開始しました。現在の総フォロワー数は約560万人に上り、毎日約2万5000作品が投稿され、その中から選定した作品をご紹介しています。私たちが掲げるビジョンは、「感動共有による寛容な世界の実現」です。例えば、旅行をすると、「こんなに素晴らしい人たちがいて、これほど美しい場所があるのか」「自分が知らなかった世界で、こんなことが起きているのか」などと、その土地への理解が深まり、お互いに対する寛容性が育まれます。そうした感動を写真で表現するクリエイターが自由に発表できる場を整え、世界中の人々の幸福を増幅していく。それが東京カメラ部の目指すことです。

左=撮影:中安敦子(2022年入賞)、撮影場所:静岡県島田市川根町家山3575 右=撮影:szuna(2022年入賞)、撮影場所:東京都港区海岸3丁目33−20 /日本写真100景<四季>写真コンテスト入賞作品より

どのような経緯で立ち上げられたのでしょうか。

もともと私は、ソニーでウォークマンの商品企画や音楽配信の技術企画に携わっていました。その後、独立してブログなどのソーシャルメディアを活用してプロモーションを手がける企業を立ち上げたのですが、時代がスマホにシフトするにつれて能動的に文章を読む人が減りつつあることに気付き、情報を取得する手段は当時広がりつつあったSNSが中心になると予想しました。人間が最も好きなのは人間であり、人と人とのつながりを生み出すSNS以上に魅力的なコンテンツは他にありませんからね。さらにブログプロモーションでは写真が良いとPVが伸びたこともあり、画像主体のSNSを活用した企業や自治体などのプロモーション活動に事業をシフトしました。そうした事業活動について発信する作例として自社のコミュニティを持ちたいと考え、Facebookで東京カメラ部を立ち上げると、1年間で9万人ものユーザーが集まり、その後も勢いよく拡大したという流れです。

クリエイターは、もっと自由に作品をシェアしたがっていた

東京カメラ部がこれほど多くのユーザーを集めた要因は何だったのでしょうか。

オンラインで手軽に参加できたことが一番だと思いますが、当時の日本の写真業界は作品発表の自由度が今よりは低かったことも大きかったと思います。カメラ現像のまま、つまり撮影後には手を加えない、いわゆる「撮って出し」が正解と考える方がいらっしゃって、PC現像処理はもちろんのこと、少しトリミングしただけでもバッシングされる空気がありました。海外にはそういう文化はなく、Web上の写真投稿サイトはありましたが、言葉の壁もあって日本のクリエイターが参加するには壁がありました。そこに東京カメラ部が出てきて、もっと自由に気軽に作品をシェアしましょうと呼びかけたところ、ずっと発表の場を求めていたクリエイターの思いがマグマのように噴出したのだと思います。

撮影:梶原憲之(2022年入賞)、撮影場所:高知県幡多郡黒潮町入野 /日本写真100景<四季>写真コンテスト入賞作品より

写真を投稿するクリエイターは、どのような層の方が多いのでしょうか。

最初は一般のクリエイターが多かったのですが、コミュニティの認知度が高まるにつれてプロの方が増えてきました。今は大体3割ほどはプロカメラマンだと思います。ユーザーの年齢層は様々ですが、レンズ交換式のカメラで撮影する人は30代以上が多く、それ以下の年代はスマホなどで気軽に撮影している印象です。

情報過多の時代にストーリー性のある作品が求められている

機器の進化により誰でも上手に撮影できるようになりつつありますが、東京カメラ部ではどのような作品が高く評価される傾向があるのでしょうか。

1つは、目新しい作品ですね。これは年代によって違いがあるのが面白いところで、フィルムカメラを知る50~60代のクリエイターは、彩度やコントラストが高くいかにもデジタルといった作品を好みます。逆に若い世代は、あえて古いコンデや数世代前のiPhoneを使って少しピンボケさせるなど、フィルムっぽい作品を好んだりします。私たちの年代からすると「ピントが合ってないよね?」「ノイズが…」などと思ってしまいますが、見慣れない画が新鮮なのでしょう。

ストーリー性がある作品も高く評価される傾向にあります。以前は風景写真というと、人や電線などが写り込むのはNGという考えがありました。しかし現代はSNSなどを通して膨大な数の写真をそれこそ浴びるように目にする時代です。特に若者は1日に1000枚くらいの写真は普通に見ており、とても目が肥えています。だからこそ単に美しい写真は心に響かず、そこから意味を感じたり、背後にストーリー性を見出せたりする作品が好まれるようになっているのでしょう。これは動画にも通じ、今の若い世代はものすごい数の動画を見ているので、映像制作のレベルの上がり方は半端ではないですね。

最近は生成AIの進化などにより作品の捉え方が変化していますが、どのようにお考えでしょうか。

生成AIにはない、写真作品の大きな価値は、実在する被写体があることです。技術の進化で生成AIが生成した画像かどうかの見分けは付かなくなるでしょうが、実際に撮影された写真にはリアルな被写体があり、そこを訪れて自分の目で実物を見られるということに大きな価値があると考えています。作品の一部を加工することに関しても、それが現実とのつながりを損なわない範囲であれば同じく価値は残るという考えです。たとえ話をすると、オーガニックな食材かどうかは食べ比べたところでほとんど分かりませんよね。それでもオーガニックであることに価値はあるわけです。それに似ています。

渋谷は文化の発信地。トレンドがリアルタイムに伝わってくる

2024年9月20日~23日、渋谷ヒカリエで「東京カメラ部2024写真展 この世界とともに。」が開催されます。毎年、写真展を開催しているのはどのような狙いでしょうか。

やはり人間は人間が好きなんで、人とリアルで会いたいという欲求はどこまでも残ると思います。YouTuberやVtuberもオンラインの活動に留まらず、オフ会を開いてファンとリアルに交流していますよね?そのように人と人が会う場を大事にしたいことが、写真展を開催する目的です。会場には、広告代理店や出版社、地方自治体の方々なども来場されるため、クリエイターと新たなクライアントのマッチングの場とも位置付けています。会社としては写真展による収益はなく、毎回、大赤字なのですが(笑)。今回は、これまでに比べて「体験」に価値を置いたコンテンツを充実させる考えです。トークイベントのほか、セミナーで参加者同士が密に交流したり、撮影会やプリントを行ったり、オンラインではできない体験や交流の場を提供したいと思っています。

2023年9月、渋谷ヒカリエで開催した「東京カメラ部2023写真展」の様子

渋谷を拠点に活動されている理由をお話ください。

小中学生の頃から映画を観るのは渋谷の東急でしたし、高校生以降も渋谷が遊び場でした。そんな体験が原点にあって渋谷は文化の発信地だという考えが強く、創業時は道玄坂にオフィスを構え、今は原宿に移ってきました。この街に身を置いていると、いま若者の中で何が起きているのか、インバウンドがどれだけ盛り上がっているのかといったトレンドがリアルタイムで伝わってきます。テレビが取材に来る場所である渋谷にいれば、テレビで特集された時点でそれはもう古い情報と言えるのです。そういう考えもあって、会社は渋谷に拠点を置いていますし、写真展は渋谷ヒカリエで開催しています。

渋谷はフォトスポットとしても魅力的だと思いますよ。写真を突き詰めると光と影に行き着くと思いますが、その点、渋谷は光の具合がすごく面白いです。たとえば、明治通りは南北方向に走っているため東西から光が入って来て、時間帯によって表情が大きく変わります。さらに最近はガラス張りの高層ビルが増えて光を反射する光景もまた良いんですよね。

「トレンドをリアルに感じられる」渋谷と原宿をつなぐ、明治通り近くのビルにオフィスを構える。

最後にこれからのビジョンをお話ください。

1つは動画関連の取り組みを強化していきたいですね。写真に比べると動画はまだ敷居が高いのですが、より多くのユーザーに動画表現を楽しんでもらうことで埋もれていた才能が世に出るきっかけをつくりたいです。

そして、これからも寛容で平和な世界をもっと国内外に広げていくことを追い求めていきます。たとえば、地方創生に関する事業では、ご依頼のあった地方自治体のSNSアカウントにその土地の素晴らしい写真を掲載して国内外から観光客を呼び込んでいます。最近、特に(様々な対立で)世界のブロック化が進んでいます。これからもクリエイターの作品をきっかけとして国内外の人たちの交流を生み出す事業を進めて、相互理解を促進することで、少しでもブロック化を緩和することができればと考えています。

東京カメラ部2024写真展
―この世界とともに。|TOGETHER IN THIS WORLD

・会期:2024年9月20日(金)~9月23日(月・祝)午前11時~午後8時
※初日9月20日(金)は17時閉場予定
※最終9月23日(月・祝)は18時30分閉場予定
・会場:渋谷ヒカリエ9F「ヒカリエホール ホールA」
・展示:10選2023の作品を含む約1,123点(予定)
・料金:無料
・主催:東京カメラ部株式会社
・公式:https://tokyocameraclub.com/special/exhibition_2024/

取材・執筆:二宮良太 / 撮影:松葉理