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SHIBUYA × INTERVIEW

「Design in Shibuya」の生活家電で人々の生活の“中心”を豊かにしていく。
宮澤卓行さん

東芝ライフスタイル株式会社/Tokyo Design Center ディレクター/デザインセンター センター長

「Design in Shibuya」の生活家電で
人々の生活の“中心”を豊かにしていく。

プロフィール

1994年、大学卒業後に松下電器産業(現・パナソニック)へ入社。携帯電話やスマートフォンなど情報機器のデザインを中心にプロダクトデザインに携わる。のちにBtoB領域を担うパナソニック コネクトでデザイン部門の責任者を務め、2022年に東芝ライフスタイルへ。同社ではデザインセンター長として、生活家電からオーディオ製品まで幅広い領域を統括。2025年8月からは、渋谷に開設した新拠点「Tokyo Design Center(TDC)」のディレクターに就任

生活家電を中心に事業を展開する東芝ライフスタイルは2025年8月、渋谷に新拠点「Tokyo Design Center(TDC)」を開設した。新たに掲げたデザインフィロソフィーは「Design for Center of Life」。渋谷発のデザインの力によって、人々の生活の“中心”を見つめ、その豊かさを支えていくことを目指している。新拠点が生まれた背景やこれからのビジョンについて、TDCディレクターの宮澤卓行さんに話を聞いた。

グローバルな発信力の強化を目指して、デザイン拠点を渋谷に移転。

まずは、東芝ライフスタイルの事業についてご説明ください。

東芝ライフスタイルは、冷蔵庫や洗濯機、炊飯器などの生活家電を中心に事業を展開してきました。2016年には、中国の美的集団(Mideaグループ)の一員となっています。Mideaグループは、「東芝」という日本発のブランド価値を尊重して高めていこうという姿勢を一貫して持っており、その一環として、当社はグループ内の“プレミアムブランド”として位置づけられています。Mideaグループが持つ生産効率やスピード感といったグローバル企業としての力に、“Made in Japan”の品質やデザインをかけ合わせることで、より競争力のあるブランドへと進化させていく──この融合こそが、現在の私たちの大きな戦略です。

2025年8月に、渋谷に新拠点「Tokyo Design Center(TDC)」を開設されました。その狙いやビジョンをお聞かせください。

当社のデザイン拠点は、もともと川崎の本社内にありましたが、今回、渋谷への移転を決めました。背景には、東芝ブランドをグローバルに発信していくうえで、そのトリガーになるのはデザインだという考えがあったからです。そうしたデザインを生み出して発信するのに最もふさわしい場所を熟考した結果、最終的にたどり着いたのが渋谷だったのです。

渋谷の街の発信力や多様性を、ブランドを進化させる力に。

渋谷を選んだのには、どのような理由があったのでしょうか。

移転先としてはいくつか候補があり、たとえば、東芝という社名の由来にもなっている芝浦など、東京湾岸エリアも検討しました。その中で渋谷がふさわしいと判断した理由の一つは、ファッションやカルチャーの発信地として、常に時代の先端を走る街だからです。そういう環境に拠点を構えることで、より強い発信力を持ち、ブランドの存在感を高められると考えました。

渋谷駅に直結する新複合施設「渋谷サクラステージ」にデザインセンターを構える

渋谷は海外の方にも知名度が非常に高い街でもあります。スクランブル交差点に象徴されるように、世界中の人々が知る「東京の顔」といえる場所でもあります。そこから生まれる国際的な発信力を背景に、新たな東芝ブランドのイメージを発信していきたいと思っています。

もう一つの背景として、東芝ライフスタイルでは現在、ブランドの“若返り”を進めています。東芝の生活家電は、少し上の世代に親しまれてきたイメージが強く、若い世代が身近に感じにくいという課題がありました。渋谷に拠点を構えることで、若い世代にも自然にブランドを意識してもらえるような、新しいブランディングを進めていきたいと考えています。

白で統一した明るくて清潔感あふれるデザインセンター内の「WORKING SPACE(ワーキングスペース)」

TDCでは、新たなデザインフィロソフィーとして「Design for Center of Life」を掲げています。その目指すところを教えていただけますか。

これまでもデザインにはいくつかのフィロソフィーが存在していましたが、それらを一つにまとめ、世界に向けても伝わる言葉として設定したのが「Design for Center of Life」です。その上位には、東芝ライフスタイル全体で掲げているブランドステートメントとして「タイセツを、カタチに。」という考え方があります。人が大切に思うものはそれぞれ違いますが、共通しているのは、それが日々の暮らしの中心にあるものだということ。私たちは、生活の中心にある一番大切なものを見つめて、デザインを通して形にしていきたい。そうした思いをこのフィロソフィーに込めています。

ワーキングスペースの隣には、3Dプリンターやレーザーカッターなどの機器を備えた「LAB(ラボ)」がある。ここでは、モックアップやプロトタイプなどを制作し、外観デザインや操作性を確認するための試作づくりが行われている

多様な人々との「共創」から、新しい暮らしのかたちを描く。

たとえば、若い世代に対しては、どのような商品に力を入れていくのでしょうか。

Z世代をはじめとする若い層にも、これからしっかりアプローチしていきたいと考えています。実際に、そうした世代から支持をいただいている製品も増えてきました。デザイン性やカラーバリエーションにこだわったアイテムを展開し、インテリアの一部として楽しめる家電を提案しています。 今後は、カラーバリエーションをさらに広げていくほか、特に渋谷という拠点の発信力を生かして、「渋谷カラー」と呼べるような新たなトレンドを生み出していけたらと考えています。

トースターやレンジなど、Z世代に向けた小型家電のデザインやカラーバリエーションに力を注ぐ

TDCは、とても開放的で素敵な空間ですよね。どのようなコンセプトで創られたのでしょうか。

大きく分けて、2つのコンセプトがあります。1つ目は、キッチンスペースなどの生活空間を再現して、生活に寄り添った発想を広げる場にすることです。従来のように机に向かってスケッチを描くのではなく、実際に生活動線を体感しながら考えられる空間にしました。たとえば、「コーヒーカップを持っていると、取っ手がこの位置では冷蔵庫の扉が開けにくいな」といった気づきが、デザインのヒントになっていきます。実際の生活空間で商品の色がどう見えるかをシミュレーションできる場にもなっています。

リビングやキッチンスペースを再現した「CO-CREATION SPACE(コ・クリエーションスペース)」。ここでは、実際の生活動線を意識しながら、プロダクトデザインへの落とし込みが行われている

2つ目は、「共創(コ・クリエーション)の場」として活用することです。さまざまな共創パートナーにお越しいただき、「5年後の暮らしはどうあるべきか」といったテーマを一緒に考える場所にしたいと思っています。レンジや炊飯器を使用して実際に調理を行うなど、リアルな生活感を共有しながら、新しい発想を生み出せる空間を目指しています。従来の開発現場というのは機密の関係もあって、どうしてもクローズドな空間でした。私たちは、そこをもう少しオープンにしていきたいのです。TDCが立ち上がったのが8月末ですので、まだ模索している段階ですが、たとえば、学生や主婦、カルチャー系の方々、スタートアップ企業などとのタイアップを検討しています。

渋谷からデザインを発信すること自体に象徴的な意味がある。

渋谷に移転されてから、宮澤さんご自身やほかのデザイナーの方々に、意識や行動の変化はありますか。

まず圧倒的に人との接点が増えました。特に若い世代の方と話す機会が本当に多くなりましたし、私自身も自然と外に出ることが増えました。仕事帰りに立ち寄るお店でも、店員さんが若い方ばかりで、何気ない会話の中からも得られる気づきがたくさんあります。

渋谷は、ポップアップショップやイベントもとても多い街です。当社が入るShibuya Sakura Stageの下でも学生さんの発表や展示が頻繁に行われていて、若い世代のアイデアや感性に触れる機会が増えました。また、デザイン関連のイベントも多く、そういった場で受ける刺激は非常に大きいですね。デザイナーにとって、日常的にインプットできる環境があるというのは何よりの財産です。

そのような環境で、デザイナーたちは、みんな自発的に外へ出ていろいろ吸収しています。ミュージアムやイベントだけではなく、セレクトショップにも足を運び、商品サンプルを見たり、時には購入したりもしています。家電デザインといっても、家電だけを見ていればいいわけではありません。素材やファッション、空間デザインなど、さまざまな分野に触れることが重要です。その意味で、渋谷という街は本当に刺激が多く、インプットのしやすさという点で以前とは比べものになりませんね。渋谷に移ってから、デザインセンター全体としても活気が出て、メンバーのエンゲージメントも高まっていると感じます。

最後に、TDCを拠点として、今後、実現していきたい目標についてお聞かせください。

やはり私たちのデザインフィロソフィーをしっかりと形にしていく、その実現の場が、このTDCだと思っています。ここでの活動を通じ、それを体現して社会に発信していくことが大きな目標です。

もう一つの大きな視点は、グローバルでの発信力の強化です。この拠点ができたことで、「東芝の生活家電のデザインは東京で、しかも渋谷で行われている」ということを、世界中の人々に知ってもらえるようにしたいと考えています。渋谷という街からデザインを発信すること自体に象徴的な意味がありますし、いずれは「Toshiba Lifestyle Design in Tokyo」、さらには「in Shibuya」と言えるようになりたい。渋谷というクリエイティブな街のエネルギーを取り込みながら、生活家電における東芝ブランドの新しい価値を発信していきたいと思います。