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独断と偏見で「2024年の渋谷」を振り返る
渋谷駅周辺

独断と偏見で「2024年の渋谷」を振り返る

2024年、世界は大きな変化と新たな潮流に沸いた年であった。パリ五輪での熱戦、新札発行、石破首相の誕生、MLBでの大谷翔平選手の輝かしい活躍など、国内外で数多くのニュースが注目を集めた。一方で、急速に進化するAI技術やインフレ懸念といった、時代の変化を象徴する話題も多く語られ、笑顔と不安が入り混じる一年であったといえる。

では、渋谷の街ではどのようなニュースや話題が注目されたのだろうか。2024年の渋谷を彩ったニュースやトピックスをランキング形式で振り返り、この街の「今」を改めて見つめてみたい。

1位:JR渋谷駅新南口閉鎖&新南改札移設・供用開始

新たに供用を開始したJR渋谷駅・新南口改札

7月21日、JR渋谷駅の「新南改札」が並木橋寄り(恵比寿側)から、渋谷ストリーム3階と渋谷サクラステージをつなぐ北側自由通路上へ移設された。新南改札はJR貨物の駅跡地を利活用したため、現在の山手線・埼京線ホームから遠く離れ、アクセスが非常に不便であった。特に成田エキスプレスで渋谷駅に到着し、埼京線ホームに降車した外国人観光客が、ハチ公広場方面へ向おうとして誤って新南改札から出てしまうと、大きな混乱を招くケースも少なくなかったはずだ。

旧新南口から施設した新南改札方面を望む。クレーンが立つ中央の建物の3階部、約250メートル北側に改札が移設した

今回の移設は、渋谷サクラステージの開発工事に伴う「まちの回遊性」向上を目的とした取り組みの一環。新南改札は従来の場所から約250メートル北側(原宿側)、国道246号線沿いの6階建て新駅舎の3階に移された。これにより、国道246号線、JR線によって分断されていた桜丘エリアの「孤立」が解消され、地域全体の活性化に寄与することが期待される。長年のまちの課題を解決する今年一番のニュースといえるだろう。

2位:再開発工事に伴い「モヤイ像」移設

再開発工事に伴い、渋谷駅から新たな場所へ引っ越しする「モヤイ像」

渋谷駅前のシンボルといえば「忠犬ハチ公像」が思い浮かぶが、その陰に隠れがちな「モヤイ像」の存在も忘れてはならない。東急東横店西館・南館の解体が進む中、工事用仮囲いの中に取り残されていたモヤイ像が、今どこにあるかをご存じだろうか。実は2024年11月28日と29日の深夜、2日間にわたって新たな場所へ移設された。移設先は、渋谷フクラスの裏手、国道246号線沿いの長崎飯店に隣接するスペースで、渋谷駅の再開発工事が完了するまでの仮住まいとなる予定だ。元の設置場所から数百メートルという近距離への引っ越しであったが、長年渋谷の人々に親しまれてきた石像だけに、美術品同様の慎重な作業が行われた。2日間にわたる深夜作業の末、無事に新しい場所への移設が終わった。

移設されたモヤイ像。顔の向きは国道246号線、セルリアンタワー方面を向く

モヤイ像の顔は国道246号を挟んだ南西方向、セルリアンタワー方面を向く。その延長線上には、約148キロメートル離れたモヤイ像の故郷・新島がある。モヤイ像は遠く離れた故郷を静かに見つめ続けている。再開発に伴う渋谷のニュースとして記録しておきたい。

3位:渋谷サクラステージ始動 注目は文化と食が交わる「サクヨン」

2023年11月30日、渋谷・桜丘エリアを一体的に整備する大規模再開発事業のシンボルとして、大型複合施設「Shibuya Sakura Stage(渋谷サクラステージ)」が竣工した。それから約8カ月後の2024年7月25日、オフィス、商業施設、サービスアパートメントなどの開業準備が整い、渋谷サクラステージはようやく本格的に開業した。

7月に本格始動した大型複合施設「渋谷サクラステージ」の外観

同施設は、「SHIBUYA(渋谷)サイド」と「SAKURA(桜)サイド」の2つのエリアで構成。敷地内には、高さ約179mのSHIBUYAタワー、高さ約90mのセントラルビル、高さ約127mのSAKURAタワーの3棟が立つ。それぞれのタワーをつなぐエリアには、人が憩い、イベントや催事を楽しめる広場が設けられ、各タワーとその周辺には、訪れる人々を惹きつける多彩な見どころがある。

左)ブリュ―ワリーを併設するフードホール「SHIBUYA SAKURAGAOKA BEER HALL」 右)書店「TASUTAYA BOOKSTORE」

中でも注目されるのが、SHIBUYAタワー4階に位置する「サクヨン」である。このフロアは、「カルチャー」と「フード」が交わるコミュニティ空間として、施設内でも特に力を入れているエリアだ。「カルチャー」の領域では、大型書店「TSUTAYA BOOKSTORE」や「SHARE LOUNGE」に加え、インディーゲームクリエイターの聖地を目指したスペース「404 Not Found(ヨンマルヨンノットファウンド)」がある。一方、「フード」の領域は、ブリュワリーを併設したフードホール「SHIBUYA SAKURAGAOKA BEER HALL」、実験的な要素を取り入れたポップアップレストランエリア「404 Kitchen」、路面店が軒を連ねる横丁エリア「渋谷 By STREET」の3つのゾーンで構成され、全17店舗が営業する。カルチャーとフードが交わる「サクヨン」は、同僚や仲間が集まり、新しいコミュニケーションや新たなアイデア、価値観が生まれる場として、今後、渋谷サクラステージをけん引するフロアとして注目を集めそうだ。

4位:「IT」から「IP」へ 新文化拠点「SHIBUYA TSUTAYA」

1999(平成11)年12月、ミレニアムへのカウントダウンが進む中、渋谷スクランブル交差点に面した商業施設「渋谷Q-FRONT(キューフロント)」がオープンした。当時、渋谷は「渋谷ビットバレー」と呼ばれ、ITベンチャーが集まる街として注目。Q-FRONTは「IT時代」の到来を象徴するデジタル情報発信型の商業施設として話題を呼んだ。開業時は、ビデオ、DVD、音楽CD、ゲームソフトを扱う「TSUTAYA」を中心に、インターネット生放送を行うデジタルイベントスペース「e-style」、デジタルスクール「デジハリ渋谷校」、映画館「シネフロント」など、マルチメディア関連のコンテンツが集結。また、施設全体に光ファイバーを敷設し、外装には縦23.5メートル×横19メートルの大型街頭ビジョン「Q's EYE(キューズアイ)」を設置するなど、先進的な技術を導入していた。これらの特徴により、渋谷スクランブル交差点に面するQ-FRONTは、まるでSF映画やサイバーパンクを想起させる都市景観として、渋谷の街を象徴するアイコンとなった。

約5カ月間の休業を経て、全フロアを「IP」を軸に一新した「SHIBUYA TSUTAYA」

開業から四半世紀を経て、渋谷Q-FRONTは全フロアを「IP」を軸とした新たな文化拠点「SHIBUYA TSUTAYA」に一新し、2024年4月25日にリニューアルオープンした。「好きなもので、世界をつくれ。」をテーマに掲げる同施設は、「IPコンテンツを体感するフロア」「ポケモンカードゲーム専用の対戦スペース」「ギャラリー展示・物販・イベントスペース」「IP書店」「コラボレーションカフェ」など、多様なサブカルチャーやポップカルチャーを包括的に取り込む場として生まれ変わった。

「IP」を核とするコンテンツは、従来のアニメ、コミック、ゲームに加え、VRやARを活用した最新の体験型コンテンツも含む。日本が誇るアニメやキャラクター文化を中心に、国内だけでなく訪日外国人にも向けて、作品の世界観をより深く体験し共有できる施設となる。「SHIBUYA TSUTAYA」は、かつて「IT革命」を象徴した渋谷の地において、次世代の文化革命を担う「IP拠点」として、新たな歴史を刻み始めたといえるだろう。

2階のスターバックスコーヒーは「展望スペース」としての機能をアップさせた

同2階のスターバックスコーヒーは、渋谷スクランブル交差点を一望できる絶好のスポットとして以前から人気を得ていたが、今回のリニューアルでさらにパワーアップ。観光客のニーズに応える形で、窓側の席をすべて取り払って十分なスペースを設け、コーヒー片手に渋谷の街並みをじっくりと楽しめる新しいフロアデザインへと進化を遂げた。

西武渋谷店1階にオープンした「Olive LOUNGE渋谷店」の外観。百貨店壁面の格子に合わせたファサードデザインが秀逸

また、「SHIBUYA TSUTAYA」に隣接する明治通り沿いの西武渋谷店B館路面に位置する「三井住友銀行渋谷支店」もリニューアルされ、2024年5月27日に新店舗「Olive LOUNGE 渋谷店」がオープンした。「TSUTAYA」を運営するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)が共同で企画した同店は、コワーキングスペースやカフェ「スターバックス コーヒー」が併設されており、新しい形の銀行店舗として話題を集めている。さらにTポイントに代わる、新生Vポイントを中心とした新しい経済圏を創出するための「PR拠点」としての役割も担い、「SHIBUYA TSUTAYA」と共に渋谷の新たな顔となった。

5位:青山と渋谷をつなぐ、新ランドマーク「渋谷アクシュ」開業

渋谷ヒカリエ側から眺めた「渋谷アクシュ」外観

渋谷駅東口、渋谷ヒカリエに隣接する大型複合施設「渋谷アクシュ(SHIBUYA AXSH)」が7月4日、オープンした。青山通り沿いの「シオノギ渋谷ビル」「渋谷アイビスビル」「渋谷東宝ビル」「太陽生命渋谷ビル」の4つのビルを、高さ約120メートル、地上23階建ての1棟のビルに建て替えた再開発プロジェクトである。「渋谷アクシュ(SHIBUYA AXSH)」の名称は、「青山(A)と渋谷(SH)の街をつなぐ(X)人や文化が交じり合い、新たな価値が生まれる場」という意味を込める。

右)1階のスパイスカリー「Spice Theater」 右)3階の「タリーズコーヒー」

1~4階は「商業」、5~23階は「オフィス」で構成。1フロア約400坪のオフィスは満室で約2500人規模の新たな就労人口を生む。商業フロアは、飲食やアートギャラリー、健診センターなど15テナントが出店。スパイスカリー「Spice Theater(スパイスシアター)」、タイ料理「チャオタイ」、スペイン料理「Cerveza(セルベサ)」など「多国籍料理」、「アンティコカフェ アルアビス」や「タリーズ」、コーヒースタンド「SINGLE O SHIBUYA(シングル・オー・シブヤ)」など「カフェ」も充実し、ランチタイムや打ち合わせなど、渋谷で働くワーカーが使えるスペースを複数設ける。

3位にランクインした「渋谷サクラステージ」は、街の分断を解消し、渋谷3丁目と桜丘町、渋谷駅西口と桜丘町を結ぶ移動の利便性を向上させた。同様に「渋谷アクシュ」も、青山方面や渋谷2丁目・3丁目への移動を促進する。これらは新たな就労人口を創出し、渋谷駅から周辺エリアへ人の流れを送り出すハブ機能として大きな役割を担う。

6位:インバウンド増加 渋谷の「都市型盆踊り」が新観光コンテンツに

2017年、渋谷駅周辺では「渋谷の街の人々と訪れる人々が交流できる場をつくる」をテーマに、「SHIBUYA109」前や道玄坂、文化村通りを会場として「渋谷盆踊り」が始まった。新型コロナウイルスの影響で一時中止を余儀なくされたが、2023年に復活し、住民や商店街、地元企業、買い物客、外国人旅行者が共に楽しむ祭りとして定着している。

「盆踊り」といえば、町会や地域コミュニティを中心とした昭和感漂うローカルな夏祭りというイメージが強い。しかし、渋谷盆踊りでは伝統的な盆踊り曲だけでなく、ポップスやアニメソング、DJパフォーマンスといった現代的な音楽を取り入れることで若者を引きつけている。また、「日本文化の体験」として外国人観光客の興味を集めやすく、簡単で覚えやすい振り付けにより飛び入り参加のハードルが低い点も人気の理由だ。さらに、この都市型盆踊りの最大の魅力は、SHIBUYA109前の交差点や渋谷スカイ、宮下公園などにやぐらを設置し、日常的な空間を一変させる「非日常性」にある。「こんな場所で盆踊りが?」という驚きがエンターテインメント性を高め、参加者の気分を盛り上げる。

無秩序な状態が続いて問題が多発したハロウィーンとは異なり、この都市型盆踊りは適切に管理されている。渋谷の夏を彩る新たなストリートコンテンツとして、この祭りを大切に育て、継続していくことが望まれる。

7位:猿楽橋架け替え工事計画 全面通行止め10年

代官山から渋谷、青山をつなぐ「都市計画道路補助第20号(八幡通り)」の一部で、JR線路上部をまたぐ渡線橋「猿楽橋」の架け替え工事の詳細が明らかとなった。1934(昭和9)年に完成した猿楽橋は既に90年を経ており、経年変化や耐震性など安全面での懸念されている。着工は2026年度以降を予定し、その間、10年以上にわたり全面通行止めとなる見通しだ。車両も八幡通りを通れず、旧山手通り、駒沢通り、明治通りなどに迂回する必要があるという。地域で暮らす住民や、仕事で八幡通りを頻繁に利用する人々にとっては、長く不便が続きそうだ。

8位:サンロッカーズ渋谷 本拠地移転を発表

10月、「B.PREMIER」ライセンス取得を報告。手前)サンロッカーズ渋谷マスコットのサンディー 左)ベンドラメ礼生選手 中央)ジョシュ・ホーキンソン選手 右)神田康範社長

Bリーグ発足以来、渋谷を拠点として活動してきたバスケットボールチーム「サンロッカーズ渋谷」が、2026年7月1日よりホームタウンを渋谷区から江東区へ移転することを発表した。この移転は、2026年に始まる新トップカテゴリー「Bリーグ・プレミア」への参入にあたり、ホームアリーナのスペックに関する審査基準を満たすための苦渋の決断だ。アルバルク東京と同じ「TOYOTA ARENA TOKYO」(江東区青海)をホームアリーナとして使用することで、ライセンス申請に必要な基準をクリアする形となった。約10年間にわたり渋谷をホームタウンとし、多くのファンに愛されてきただけに、この決定は非常に残念なニュースである。将来的に渋谷にアリーナが建設された際には、ぜひ再び渋谷を拠点とする日が訪れることを願いたい。

9位:渋谷の決断 ハロウィーン封印と路上飲酒通年禁止

「渋谷はハロウィーンをお休みします。」という強いメッセージを掲げ、渋谷区はハロウィーンを目的とした来街を控えるよう呼びかけた。渋谷でのハロウィーンは2012年頃から盛り上がりを見せ始め、当初は区も新たな渋谷カルチャーの一つとしてこれを応援する姿勢を取っていた。しかし、年を追うごとに飲酒によるトラブル、器物破損、暴走車両、ごみの大量放置などが社会問題化。特に2018年の渋谷センター街で発生した軽トラック横転事件や、2022年の韓国・梨泰院での雑踏事故を受け、渋谷からハロウィーンを排除する動きが一気に強まった。

昨年からは、忠犬ハチ公像周辺に仮囲いを設置したほか、駅に向かう通りと渋谷センター街方向への通りをそれぞれ一方通行にし、人の滞留を防ぐ対策が徹底された。さらに今年からは、ハロウィーン期間中のみならず、通年で午後6時から翌朝5時までの間、渋谷駅周辺エリアでの路上飲酒を禁止する条例が全国で初めて施行された。「若者に寛容な街」として知られる渋谷であるが、ハロウィーンに関しては極めて厳格な姿勢を貫いている。

10位:渋谷に現代アート美術館 実業家のコレクション公開

左)「UESHIMA MUSEUM」外観 右)1階エントランス1に展示される名和晃平さんの「PixCell」 シリーズの鹿

渋谷・キャットストリート沿いに位置する「渋谷教育学園」敷地内に、現代アート美術館「UEASHIMA MUSEUM」が6月1日に開館した。この美術館は、渋谷教育学園出身で、事業家・投資家として活躍する植島幹九郎氏が館長を務める。館内は地下1階から5階までの計6フロアで構成され、植島さんが所有する650点以上の現代アート作品の中から、テーマごとに厳選されたコレクションが一般公開されている。展示する作品群には、名和晃平さん、杉本博司さん、村上隆さん、宮島達男さんなど、日本を代表するアーティストの作品が含まれる。さらに、ライアン・ガンダーさん、オラファー・エリアソンさん、現代アートの巨匠ゲルハルト・リヒターさんといった国際的な作家の作品も展示されており、その充実した内容が注目を集める。

渋谷には、太田記念美術館や山種美術館、渋谷区松涛美術館のほか、小規模なギャラリーも数多く存在する。が、これまで「現代アート」に特化した常設美術館は存在せず、UEASHIMA MUSEUMはその点で際立った存在といえる。特に渋谷教育学園の敷地内に立地していることから、学生はもちろん、渋谷を利用する若者が上質なアートに触れる機会を得ることは、教育の観点からも重要である。特に現代アートでは、社会問題やテクノロジーの進化、人間関係の変容などをテーマに扱うことも多く、単なる美的鑑賞にとどまらず、現代社会を読み解くためのヒントや議論のきっかけを提供してくれる。初心者でも気軽に楽しめるような展示構成や解説も工夫されており、難解に感じられがちな現代アートを親しみやすく紹介している点もおすすめだ。

取材・執筆

編集部・フジイ タカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。