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渋谷川沿いで取り組む「ビオトープ」──東横線跡地で生み出す新たな憩いの場
渋谷リバーストリート

渋谷川沿いで取り組む「ビオトープ」──東横線跡地で生み出す新たな憩いの場

1月22日に放送されたコミュニティFM「渋谷のラジオ」の番組「渋谷文化プロジェクト」に、東急の白井亜弥さん、Spiral Clubの立山大貴さん、小林ななみさんがゲスト出演し、「渋谷川沿いの遊歩道」で取り組まれている「ビオトープ」について話を聞いた。本記事では、番組内容の一部を抜粋して紹介する。

2018年9月、旧東横線渋谷駅のホームや線路跡地に、大規模複合施設「渋谷ストリーム(SHIBUYA STREAM)」がオープンした。同時に稲荷橋から並木橋、渋谷ブリッジまで約600メートルにわたり、遊歩道「渋谷リバーストリート」が整備された。

高架橋を走る東横線と渋谷川(撮影=2012年9月)

かつてこのエリアは東横線の高架下に位置し、暗く閑散としていた場所であった。渋谷川も「どぶ川」というイメージが強く、人が集う場所ではなかった。しかし、「渋谷ストリーム」の開業を契機に、明るく開放的な憩いの場へと生まれ変わった。現在では、日中に腰掛けて談笑する人やランチを楽しむ人々で賑わうスポットとなっている。

遊歩道に佇む「ビオトープ」とその背景

遊歩道には、東横線高架橋の柱を一部活用した「パーゴラ」が設置されている。このパーゴラの上部には鉄鋼やレールが組み込まれており、かつての線路跡を象徴するパブリックアートとして存在感を放っている。その下にあるのが「ビオトープ」だ。

東横線地上線の遺構である高架橋の柱とレールを組み合わせたパーゴラ。柱に表示される「32」は、駅から数えて32番目の柱を意味する。

何とも唐突な感じも受けるが、なぜ、この場所にビオトープが設置されているのか。

東急の白井さんによると、「渋谷川沿いの広場や遊歩道の価値を高める取り組みの一環」であるという。同社は、定期的に自主企画として野外イベント「SHIBUYA SLOW STREAM(渋谷スローストリーム)」を開催し、遊歩道沿いの賑わい創出に力を入れている。ビオトープも2023年9月の同イベントで展示されたのが始まりで、イベント終了後も設置を継続しているという。

左=水草に付くタニシ 右=冬場でも太陽の出ている日中は水面近くで泳ぐメダカ

ビオトープの管理を担っているのは「Spiral Club」のメンバーたち。同クラブは、地球環境や気候変動に興味を持つ人々が集うオープンコミュニティとして、ワークショップや読書会などを定期的に開催している。メンバーの立山さんによれば、ビオトープは「渋谷の街のど真ん中にある『小さな生態系』」であり、メダカやアカヒレ、ドジョウ、小エビ、タニシなどが共生しているという。現在、水の中を覗いてみると、冬のため、魚たちは土の中や水草に隠れてじっとしていている。

メンバーたちは週2回の頻度で水質管理を行い、蒸発した水の補給や藻の除去などを担当している。さらに、ビオトープには太陽光パネルが設置されており、水の循環に必要な電力を供給している。この設備のおかげで、水質の維持が格段に容易になったという。

太陽光パネルの電力を使って水を循環させている

当初は「渋谷に置いたら、タバコの吸い殻やゴミが捨てられるのではないか」という不安があったが、実際にはそのような問題は一切発生していないという。メンバーの小林さんは「渋谷の街もちょっと信頼できるかも」と街への見方が変わったと語る。また、立山さんは「散歩中の人が『最近、メダカが……』と話しかけてきたり、ビオトープをきっかけに新たな出会いや会話が生まれるのが楽しい」と話す。

忙しさが象徴される渋谷において、ビオトープは「スローな時間」と「コミュニティの温もり」を街にもたらす存在となっている。このスローなコミュニティが、未来の都市づくりの新たなモデルとなり得るのか。今後の展開が期待される。

渋谷のラジオの「ビオトープついて」の放送は、下記より聴取ください。

渋谷のラジオ:「ビオトープ」担当者ラジオ生出演

開催場所

取材・執筆

編集部・フジイ タカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。