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完成模型から妄想する「2034年の渋谷」―都市の未来像を立体で体感する
2025-06-04
「サグラダ・ファミリアのように、いつまでも終わらない」と言われてきた渋谷駅周辺の大規模再開発だが、ついにその全工事が2034年に完了することが明らかになった。
「まだ9年も先なの?」それとも「あと9年で終わるの!?」と、受け止め方は人それぞれだろう。ただ確かなのは、9年後の渋谷駅周辺、特にスクランブル交差点を中心としたエリアが、今とはまったく異なる姿になっているということだ。
渋谷駅再開発の全体像については、以下の関連記事をご覧ください。
現在はまだ仮囲いが立ち、工事の音が響く渋谷の街。2034年の完成形を実感するのは難しいが、すでにその「未来」に触れる方法がある。それが、「渋谷ヒカリエ11階」と「渋谷スクランブルスクエア12階」に展示されている2つの完成模型だ。
図面やパースといった2次元の資料ではイメージしにくい、建物の高さや街の連なり、人の動線、空間の広がり。これらを360度あらゆる角度で体感できるのが模型の最大の魅力だ。模型は「静止した未来」を映し出しながら、見る人の頭の中でその空間を歩く人びとの暮らしや営みを描き出す、まるで仮想の都市体験が始まるように。
さあ、時空の扉を開けて、2034年の渋谷を歩いてみよう!
渋谷ヒカリエ11階で見る「渋谷広域の未来」
渋谷ヒカリエ11階スカイロビーに展示される「渋谷駅周辺地域都市模型」(1/500スケール)
まず訪れたいのが、渋谷ヒカリエ11階に展示されている「渋谷広域の完成模型」。1/500スケールで、渋谷駅を中心に半径約500メートル以内のエリアをカバーし、駅周辺の5街区(渋谷ヒカリエ、渋谷ストリーム、渋谷スクランブルスクエア、渋谷サクラステージ、渋谷フクラス)のほか、「渋谷キャスト」「渋谷アッパーウェストプロジェクト(東急本店跡地)」「渋谷ソラスタ」まで、渋谷の街を広く白模型で再現している。
模型は平面的な鳥瞰図ではない。周囲を歩きながらさまざまな角度で眺めることで、建物同士の「密度」や「呼吸」が感じられる。渋谷駅を底とする「すり鉢地形」から高層ビルがニョキニョキと屹立するダイナミックな構成は、渋谷という街の「混在」「多様性」といった特性を強く印象づける。
模型の中央には、今後整備される「渋谷スクランブルスクエア中央棟・西棟」や、拡張予定の「ハチ公広場」、「スカイウェイ」と呼ばれる東西を空中でつなぐ歩行者デッキも再現されている。さらに、2031年度竣工予定の宮益坂地区の再開発計画も模型にすでに反映されており、視覚的に「近未来の渋谷」を体感できる。
左=2031年度竣工予定の宮益坂地区の高層ビル、右奥=渋谷ヒカリエ、右手前=渋谷スクランブルスクエア東棟・中央棟・西棟
この再開発では、渋谷ヒカリエ4階部の「ヒカリエデッキ」から宮益坂上空を通る歩行者デッキが整備され、宮益坂下に新たに建設される地上33階・高さ約180メートルの高層ビルへと接続される予定だ。JR渋谷駅から宮益御嶽神社がある宮益坂中腹まで、幹線道路に阻まれることなく空中レベルでアクセスが可能となる。
「宮益坂地区の高層ビル」と「渋谷ヒカリエ」の間には、宮益坂の上空4階レベルに歩行者デッキが設置される。また宮益坂沿道には、鬱蒼とした緑地帯が続いている
また、宮益坂沿いに広がる緑地帯のボリュームも見逃せない。模型上でも「緑のわさわさ感」が伝わってくる。渋谷区では大山街道(道玄坂~宮益坂)沿いを「歩行者中心のにぎわいある街並み」とする方針を掲げており、そのビジョンが模型からも感じ取れる。
「渋谷広域の完成模型」の隣には、「現在の渋谷駅周辺」の姿を再現したレゴブロックも展示
ちなみに「未来の渋谷」を再現する模型の隣には、レゴ認定プロビルダー・三井淳平さんが手がける「現在の渋谷駅周辺」の姿を再現したレゴブロックも展示されている。未来と現在を比較しながら、細部にこだわる三井さんの神業にも注目してほしい。
渋谷スクランブルスクエア12階で見る「駅直結エリアの未来」
渋谷スクランブルスクエア12階イベントスペースSCENE12 に展示されている「渋谷駅周辺イメージ模型(2024年度完成予定)」(1/200スケール)
より詳細かつダイナミックな駅直結エリアの未来像が体感できるのが、渋谷スクランブルスクエア12階に展示された「駅周辺完成模型」。2025年6月4日に新設されたばかりで、スケールは1/200。街全体を捉えた1/500スケールと異なり、渋谷駅とハチ公広場、渋谷スクランブルスクエア中央棟・西棟、西口上空デッキ、スカイウェイなど、駅直結エリアにフォーカスし、細部までしっかりと再現されている。
なかでも目を引くのが、渋谷の東西を空中でつなぐ歩行者デッキ「スカイウェイ」の存在だ。銀座線の「M字屋根」の構造を活かして整備され、明治通りやJR線に阻まれていた東西の歩行者動線が劇的に変化する。
さらにスカイウェイ(4階)からハチ公広場(1階)までの縦移動をスムーズにつなぐU字型の「アーバン・コア」も、渋谷の新たな象徴的デザインとして注目を集めそうだ。今のところ、忠犬ハチ公像の設置位置は決まっていないようで、模型上にハチを見つけることはできない
渋谷スクランブルスクエア中央棟・西棟は低層で、中央棟10階広場には建築ユニット・SANAAが手がけるパビリオンが計画されている。また、「東棟」と合わせて、1フロアあたりの売場面積が最大約6,000平方メートルの大規模な商業施設もオープン予定
渋谷スクランブルスクエア西棟3階部、JR改札とも接続する巨大広場「西口上空デッキ」(3,000平方メートル)がオープン予定。デザイン設計は銀座線渋谷駅を手掛けた内藤廣氏
また、駅周辺には拡張を予定する「ハチ公広場」のほか、「東口地上広場」や渋谷スクランブルスクエア西棟3階前面の巨大広場「西口上空デッキ」「中央棟4階広場(JR線路上空)」「中央棟10階広場」と計5つの広場が整備予定で、合計で約20,000平方メートルの規模になる。これらの広場はにぎわいや憩いの場であると同時に、非常時の「一時避難場所」としての機能も備えるという。特に中央棟屋上に整備される「10階広場」は、229メートルの高さにある「SHIBUYA SKY」とは異なり、より地上に近い視点から渋谷スクランブル交差点を眺められる新しい展望スポットとして人気を集めるかもしれない。妄想がふくらむばかりだ。
近年の再開発プロジェクトでは、収益重視の商業フロアだけでなく、広場や公開空地、緑地帯などの「余白」を積極的に取り入れた設計が増えている。単なる高密度開発ではなく、「抜け」や「ゆとり」が意識されていることは、模型からも明確に伝わってくる。
都市計画は往々にして抽象的で、スケールが大きすぎて私たち市民にとっては「他人事」になりやすい。だが、このような模型がもたらすリアルなビジュアルは、そうした距離感を縮め、一人ひとりが街に係る演者の一人として街を考えるきっかけをくれる。図面や完成予想図(パース)では見えてこない「都市の手触り」が、模型にはある。2034年の完成を待たずとも、渋谷ヒカリエと渋谷スクランブルスクエア東棟を訪ねれば、今はまだ存在しない「もうひとつの渋谷」に出合うことができるはずだ。立体模型が語る「未来の渋谷」。ぜひ、その目で確かめてみてほしい。