SHIBUYA × WATCH
「推し」でつながる都市へ ギャルからビットバレー、そしてキャラクター文化の拠点へ
1990年代、渋谷は「ギャル文化」の震源地であった。スクランブル交差点を闊歩する女子高生たちは、ルーズソックスにミニスカート、プリクラやガラケーを駆使し、原宿とも新宿とも異なる独自のカルチャーを築き上げた。彼女たちは消費の最前線に立ち、ファッションも音楽も、その潮流の中心は常に渋谷にあった。

90年代から2000年代前半のギャル文化をけん引した2人のカリスマ(左=SHIBUYA109シリンダーに掲出された安室奈美恵さん広告 右=浜崎あゆみさん広告)
2000年前後になると、渋谷は「ビットバレー」と呼ばれ、ITベンチャーの一大集積地へと変貌を遂げる。ミレニアム目前の1999年には、渋谷スクランブル交差点に「Q-FRONT」がオープン。最先端のマルチメディア施設として、TSUTAYA、インターネットスタジオ「e-style」、映画館「シネフロント」などが集結した。同時に巨大な街頭LEDビジョン「Q's EYE」も壁面に設置された。その後、「渋谷駅前ビジョン」「109フォーラムビジョン」などの交差点周辺の大型ビジョンと合わせたシンクロ放映が可能となり、スクランブル交差点をジャックしたインパクトのある広告展開が日常の光景となった。こうして渋谷は、リアルとデジタルが交差する近未来的な都市空間として生まれ変わった。


渋谷スクランブル交差点周辺の街頭ビジョンをシンクロ活用した「渋谷ジャック」
そして、令和の渋谷は「IP(知的財産)」を核としたカルチャーの集積地として、再び進化を遂げている。その象徴となるのが、2019年にリニューアルオープンした「渋谷PARCO」である。3年3カ月に及ぶ休業期間を経て生まれ変わったパルコは、6階にポケットモンスター公式ショップ「ポケモンセンターシブヤ」、任天堂直営の公式ショップ「Nintendo TOKYO」、集英社の公式ショップ「JUMP SHOP」、カプコン公式ショップ「CAPCOM STORE TOKYO」といった、日本が世界に誇るゲーム・アニメの公式店舗を一堂に集めた。いずれも「見る」「買う」だけでなく、「体験する」ことに特化した作りとなっており、IPの世界観に深く没入できる空間が整備された。
2019年11月、3年3カ月ぶりに復活した「渋谷パルコ」


渋谷パルコ6階にオープンした「ポケモンセンターシブヤ(左)」と「Nintendo TOKYO(右)」
特に「ポケモンセンターシブヤ」では、黒を基調とした空間に浮かぶ等身大のミュウツーが来場者を迎える。アニマトロニクス技術により呼吸までも再現され、テクノロジーとキャラクターが融合する演出が訪日外国人からも高い評価を得ている。同施設限定のTシャツ制作体験「ポケモンデザインラボ」は、数百種類以上のポケモンを自由に組み合わせて、自分だけの“推し”アイテムを生み出すことができる。


2025年7月、渋谷パルコ6階にオープンした「THE★JOJO WORLD(左)」と「SEGA STORE TOKYO(右)」
リニューアルオープンから丸5年を経た今年(2025年)は、施設全体で大幅なリニューアルを進めており、その勢いは加速する。6階フロアにはるゴジラ公式ショップ「ゴジラ・ストア Shibuya」(2025年4月)、国内初となるセガ旗艦店「SEGA STORE TOKYO」(2025年7月)、「ジョジョの奇妙な冒険」の公式ショップ「THE★JOJO WORLD」(2025年7月)、さらに5階フロアには「ドラえもん」のファッションアイテムとインテリア雑貨を中心とした「THE DORAEMON STORE」(2025年9月)も出店を予定するなど、続々とIPのフラッグショップが誕生。渋谷パルコはまさに「キャラクターIPの殿堂」と化している。
2024年4月、IPの体験拠点としてリニューアルオープンした「SHIBUYA TSUTAYA」
一方、かつて「ITの象徴」として時代を牽引したQ-FRONTも、2024年4月に「SHIBUYA TSUTAYA」としてリニューアルを果たした。今やその中心にあるのは「IT」ではなく「IP」である。全フロアを通じてポップカルチャー、サブカルチャーの体験拠点と化した同施設には、ポケモンカード専用の対戦スペース、AR/VRコンテンツ、IP書店、コラボカフェなどが設けられており、「好きなもので、世界をつくれ。」という新たな哲学が息づいている。


左) 「SHIBUYA TSUTAYA」1階のイベントスペース「Shibuya IP Square A」。3面の屋内LEDビジョンと屋外エントランスLEDビジョンを完備し、IPコンテンツの世界観をビジュアルを通じて体感できるフロア。期間限定で様々なアニメやキャラクターのポップアップイベントが実施されている 右)6階の「IP書店」。「POP UP SHOP」「IP100」「ギャラリー」の3つのエリアで構成されており、コミック・フィギュア・グッズなどを中心に販売している
また、2024年7月には「渋谷サクラステージ」SHIBUYAサイド4階に、インディーゲームクリエイターの発信拠点「404 Not Found」が誕生。展示・ライブ・試遊などを通じて、マイナーIPやオリジナルIPが次の文化の芽として育まれている。同12月には、SHIBUYAサイド3階フロアにスクウェア・エニックス公式グッズショップ「スクウェア・エニックス ガーデン」がオープンし、ゲーム文化との結びつきも一層強化されている。


左)4階のインディーゲームクリエイターの発信拠点「404 Not Found」 右)3階のスクウェア・エニックス公式グッズショップ「スクウェア・エニックス ガーデン」
さらに今年8月1日、「MAGNET by SHIBUYA109」地下1階に、バンダイナムコの体験型リテール施設「バンダイナムコ Cross Store MAGNET by SHIBUYA109店」がオープン。バンダイナムコは、7月に渋谷パルコに「THE★JOJO WORLD」を出店しており、さらに来年夏には宇田川町に約2000人を収容できる多目的ホール「Shibuya LOVEZ(シブヤラブズ)」の開業も予定する。渋谷を新たなIP創出の拠点と位置づけ、積極的な展開を進めている。
来年夏、開業予定の多目的ホール「Shibuya LOVEZ(シブヤラブズ)」のイメージパース
もはや、渋谷は単なる若者の街ではない。ギャル文化の街から、IT革命の街を経て、今や「IPの街」として、アニメ、ゲーム、キャラクターといったコンテンツを愛する人々の「聖地」となった。そこには、“推し”を表現し、“推し”を共有し、“推し”を通じて人とつながる、新たな都市の価値がある。コロナ収束後のインバウンドもそれを強く後押ししている。
“JK(ギャル)”から“IT(ビットバレー)”、そして“IP(キャラクター)”へ——。時代とともにトレンドは移り変わってきたが、渋谷という街が持つ圧倒的な吸引力は変わることがない。これからも多くの人びとを惹きつけ続けるだろう。