心躍る世界を、渋谷から。

SHIBUYA × WATCH

【レポート】 渋谷文化プロジェクト 20周年記念イベント  「渋谷20年の記憶、そしてこれから」開催
渋谷ヒカリエ8階COURT

【レポート】 渋谷文化プロジェクト 20周年記念イベント  「渋谷20年の記憶、そしてこれから」開催

2005年にスタートしたWEBサイト「渋谷文化プロジェクト」は、渋谷の街と文化の変化を20年にわたって記録し、発信し続けてきた。その節目となる20周年イベントでは、これまでの歩みを振り返るとともに、若い世代の声も交えながら、これからの渋谷の姿についてさまざまな意見が交わされた。

渋谷の20年を振り返り、これからの街のあり方を考える

渋谷が持つ魅力の発信を目的としたWEBサイト「渋谷文化プロジェクト」が立ち上がったのは2005年。その20周年を記念したイベント「渋谷20年の記憶、そしてこれから」が、2025年12月8日、渋谷ヒカリエ8階COURTで開催された。会場には、同サイトを運営する東急や制作関係者のほか、渋谷の街や文化の変遷に関心を寄せる来場者が集い、これまでの試行錯誤を振り返るとともに、これからの渋谷について考える時間が共有された。

第1部トーク「渋谷のこれまで:渋谷を見つめ続けた20年」

“人”を通してソフト面を発信するメディアとしてスタート

トークセッション第1部は、「渋谷のこれまで:渋谷を見つめ続けた20年」をテーマに、過去20年にわたる渋谷の街の変遷と、それを発信し続けてきた「渋谷文化プロジェクト」のコンテンツの歩みを振り返った。これまで同サイトの運営を担当してきた歴代の東急社員のうち3名が登壇し、2005年の立ち上げ当初から20年間にわたり企画編集を手がけてきたJLOCAL(シブヤ経済新聞)の藤井貴さんがファシリテーターを務めた。

2005年の立ち上げから企画編集を担当する藤井さん

セッションの冒頭では、2005年当時の渋谷の状況が語られた。2003年の六本木ヒルズ開業以降、スタートアップ企業の六本木移転が相次ぐなど、都市間競争のなかで渋谷はビハインドにあるともいえる状況だった。そうした背景のもと、東急は、渋谷の街全体が文化創造のプラットフォームとなることを目指す「渋谷カルチャープラットフォーム構想」を発表。その流れが、カルチャーなどのソフト面に焦点を当てた同サイトの立ち上げへとつながっていった。

渋谷文化プロジェクトの生みの親で、初代担当者の小林さん

初代担当者であるデジタルプラットフォーム デジタル戦略Gの小林乙哉さんは、「東急だけで街づくりをすることには限界がある。だからこそ仲間をつくりたいと考え、渋谷の“人”を通してソフト面を発信するメディアとしての構想が形になっていきました」と当時を振り返る。新宿・池袋・銀座などとの競争を見すえ、あえて“東急色”を弱め、「街のポータル」としての立ち位置を重視した方針なども明かされた。また、「プロジェクト」という名称については、「最初は付けないほうがいいのではと思っていました(笑)」としながらも、「結果的に、終わりのない取り組みとして、ずっと動き続けているイメージになってよかった」と語った。

渋谷の魅力を語るキーパーソンインタビュー

2005年12月のウェブサイトの開設以来、渋谷文化プロジェトは、渋谷を拠点に活躍する約170人(組)のキーパーソンにインタビューを行い、彼らの言葉を通じて「渋谷の魅力」を伝えてきました。

KEYPERSONインタビュー(2005年~)

エンタメを捉え直す一環として、再開発工事そのものをコンテンツ化

続いて語られたのが、2012年に東急が発表した「エンタテインメントシティしぶや」というコンセプトだ。当時の担当者である社長室 広報Gの樺幸世さんは、「ショービジネスに代表される狭義のエンタテインメントにとどまらず、日常の暮らしのなかにある生活文化を含めた広義のエンタテインメントとして渋谷を捉え直そうとする考え方です。街のイメージをポジティブに更新し、その多様性、寛容性といった価値観に共感するプレイヤーが次々に集まることで、渋谷を『日本で一番訪れたい街』にすることをめざしました」と説明した。

途中で育児休業を挟みながら2009年から2016年まで、長期にわたって運営を担当した樺さん

このコンセプトのもとで人気を集めたコンテンツの一つが、再開発工事そのものをエンタテインメントとして伝える記事群だ。たとえば、2013年3月15日に行われた「東横線 地下化切替工事」を紹介した動画記事は、YouTubeで300万回再生を記録。さらに、シブヤ大学とのコラボレーションにより、一般の人が工事現場を見学する特別授業も実施されるなど、工事のプロセスそのものを文化として発信する試みが行われた。「工事って、実は面白いんです。それをエンタメとしてどう伝えるかを考え抜きました」と、樺さんは振り返る。

2014年3月から「工事のエンタメ化」をテーマに特集記事を展開。暗くて騒々しいという印象のあった渋谷駅再開発工事を、ユニークな切り口で捉え直し、新たな魅力として発信した。🔗特集記事「ザ・工事中、渋谷が生まれ変わる瞬間に立ち会う」

2013年3月15日、85年の歴史を持つ東横線・渋谷駅の地上駅舎で運行された最終列車から、翌16日の始発までの間に行われた「代官山地下化切替工事」の様子を収録した記録動画。東急東横線と東京メトロ副都心線の相互直通運転開始に向け、終電から始発までのわずか約3時間半で地上線を地下化した日本の土木工事技術の高さが海外からも注目を集めた

2010年3月から2013年2月にかけて、「渋谷の魅力」「渋谷で遊ぶ」「渋谷で働く」など多彩なテーマで計5回開催したトークイベント「渋谷文化茶会」。写真は、2012年2月10日に「渋谷ヒカリエ開業」をテーマに開催した「渋谷文化茶会 女子会」の様子で、会場はセルリアンタワー能楽堂 (撮影=2012年2月10日)

スマートフォンの普及により、「街に来なくても情報が得られる」時代となったことを受け、「来街する理由」を生み出すコンテンツ制作にも取り組んだ。その一つがトークイベント「渋谷文化茶会」だ。渋谷のキーパーソンとリアルな場で対話できる機会を設けることで、オンラインでは得られない体験価値を提供。こうした取り組みは冊子化にもつながり、Webからリアル、さらに紙へというメディア展開が実践された。

樺さんの担当時には、トークイベント「渋谷文化茶会」の内容や「渋谷の街」に関するデータを編集した小冊子を発行。渋谷土産の企画や、コミュニティFM「渋谷のラジオ」への番組展開など、ウェブサイトの枠を超えた情報発信に積極的に取り組んだ

“終わるけれど終わらない”渋谷の街を発信し続ける

その後、再開発が本格化し、東急東横店をはじめとする「思い出の場所」が次々と姿を消していく時期を迎えた。そうしたなか、記念冊子『NO END』を制作、サイト内の特設ページでも公開した。藤井さんは、「イサム・ノグチ氏が手がけた東横劇場の緞帳(どんちょう)の作品タイトル『NO END』にあやかり、渋谷の街の変遷を表す内容としました。これまでの『渋谷文化プロジェクト』の活動の集大成になったと思います」と語る。

2020年3月31日の 「東急東横店西館・南館」閉館に向けたクロージングキャンペーンでは、渋谷文化プロジェクトがキャッチコピー「NO END」を企画し、記念冊子「NO END-東横ターミナルデパート物語-」制作や展示企画、ラッピング電車の運行などを実施した。上記写真は、2000部限定で発行した記念冊子

「NO END」関連の特集記事

同時期、新型コロナウイルス感染症の拡大により、人が集まれない状況が長く続いた。当時の担当者である社会インフラ事業部 インフラ開発Gの浜本理恵さんは、「バトンを渡されたものの、インタビューや取材の場も設定しづらく、何をどう発信すべきか悩まされました」と振り返る。こうして、同サイトは一時的な停滞期を迎えることとなった。

コロナ禍を経て、同サイトはあらためてその役割を再定義していく。再開発が進んだことで、渋谷には「働く人」が急増し、街の顔も大きく変化した。こうした状況を受け、これまでの全方位型の情報発信から、「渋谷で働く人」に向けたメディアへと軸足を移し、ソフト面を重視する方針は変えずに「働く」に焦点を当てたコンテンツ展開が進められている。

2018年から2025年春まで担当した浜本さん。コロナ禍による運営停滞を経て、2024年には「渋谷で働く人々」に向けたサイトへと大規模リニューアルを実施。サイト開設20年を前に、新たな方向性を示した

あわせて、東急の見せ方にも変化が生まれた。浜本さんは、「かつては、あえて東急を前面に出さない姿勢を貫いてきたが、現在は『渋谷の一員』としての関与を示すフェーズにあると考えています」と話す。

こうして20年にわたって蓄積されてきた同サイトのコンテンツは、渋谷の街の変遷をリアルタイムで記録し続けてきた貴重なアーカイブとして、誰もが気軽に閲覧できる存在となっている。

第2部トーク「渋谷のこれから:渋谷の未来を語ろう」

サイトと同じ“20歳”の若者がこれからの渋谷を語る

第2部では、若い世代の視点から渋谷の現在と未来を考えるトークセッションが行われた。登壇したのは、20歳前後の大学生を中心とした参加者4人。ファシリテーターは、「シブヤ経済新聞」編集長の西樹さんと、東急で渋谷のプロモーションや運営に携わる担当者の亀田麻衣さんが務めた。西さんは「渋谷の未来について、ぜひ率直に語り合いたい」と呼びかけ、セッションがスタートした。

トーク2部の進行を担当した東急・亀田さん(左)、シブヤ経済新聞編集長・西さん(右)

まず紹介されたのは、青山学院大学・経営学部・久保田ゼミの取り組みだ。マーケティングや消費者行動を研究する同ゼミでは、東急と連携しながら渋谷の街づくりについて考察を行ってきたという。3年生の牧野希純さんは、「渋谷を盛り上げるのは簡単ではないと感じました。長年積み上げられてきたものがある一方で、学生などの若者が渋谷をどう見ているのかを改めて考える必要があると感じました」と語った。

登壇者は、渋谷文化プロジェクトが開設された2005年前後に生まれた大学生4人(左から國學院大學・峯島映実さん、大島弓弦さん、青山学院大学・牧野希純さん、平沢萌果さん)

続いて、國學院大學・経済学部・田原ゼミに所属する大島弓弦さんが、フィールドワークを通じた渋谷との関わりを紹介。地域イベントへの参加や、東急・東急ホテルズ&リゾーツ等と協力した授業を通じて、「10年後の渋谷」を描き、東急が果たせる役割を提案する取り組みを行ったという。一方で、「10年後の渋谷を具体的に描くことは、想像以上に難しかった」と率直な感想も述べた。

毎年春に渋谷川沿いで開催される「渋三さくらまつり」の企画・運営を手がける、田原ゼミの大島さん

若者は未来の渋谷の完成イメージを見て、何を思う?

セッションの途中では、2034年度の渋谷の完成イメージ動画が上映された。現在の街並みと重ね合わせながら未来の姿を見ることで、参加者からは「分かる部分もあれば、まだイメージしきれない部分もある」といった声が上がった。

学生が完成イメージ動画を見た感想としては、「歩きやすさ」や「動線の分かりやすさ」への期待が多く挙がった。すり鉢状という渋谷特有の地形が、これまでの分かりにくさの要因だったことに触れながら、「すべての人が快適に過ごせる街になるのでは」と期待を寄せる声もあった。さらに、フォトスポットの増加や外国人観光客にも分かりやすい街並みになる点を評価する意見も見られた。

2030年代半ばの竣工を目指して計画が進む「渋谷二丁目22地区」のイメージパース。中層階には、シネマコンプレックス型の映画館の整備も予定されている

ここで、東急側から、「渋谷二丁目22地区」の再開発についての説明があった。現在、東急は渋谷エリアで11の再開発プロジェクトを推進しており、その中でも二丁目22地区は、渋谷駅東口の玄関口となる大型開発として位置づけられている。駅から地上までをつなぐアーバンコアを軸に、地下通路やペデストリアンデッキ、周辺施設と接続し、東口の新たなシンボルとなる空間を目指すという。渋谷最大規模となる映画館の誘致も計画されている。

二丁目22地区に計画されている映画館や商業施設に関して、学生からは、「上映本数が増えるだけでもありがたい」「レイトショーを一人で気軽に観られる映画館がほしい」「4DXなど体験型の映画館があると面白い」「推し活に対応した上映空間があってもよいのでは」といった自由な意見が挙がった。

この街を訪れる一人ひとりの声が次の渋谷を形作っていく

再び現在の渋谷に関する話題に戻り、普段の過ごし方について意見が交わされた。「とりあえず集まるなら渋谷」という声は多く、買い物や飲食、カフェ巡り、ライブハウスなど、明確な目的がなくても滞在できる街としての魅力が語られた。地方出身の青山学院大学・平沢萌果さんからは、「友人が埼玉や横浜など各地に散らばっていても、渋谷なら集まりやすい」という意見も聞かれた。また、音楽好きという大島さんは、「ライブハウスが狭いエリアに集積している点は、他の都市にはない魅力」と指摘。國學院大學の峯島映実さんは、「中高生の頃は原宿で遊ぶことが多かったが、大学生になってからは渋谷に来るようになった。より大人の街というイメージがある」と話した。

久保田ゼミの平沢さんら、学生の話に真剣に耳を傾ける来場者たち

今後の渋谷に期待したいこととして、映画の待ち時間を過ごせる落ち着いた空間や、20〜30代にフィットする店舗構成、誰でも腰をかけて休める場所へのニーズなどが語られた。さらに、未来に向けたアイデアとしては、大規模ライブイベントやプロジェクションマッピング、気軽に体を動かせるスポーツスペース、天候に左右されない屋内型のエンタテインメント施設、緑のある空間など、自由な発想が次々と飛び出した。「渋谷に来れば、今の社会やカルチャーが一目で分かる場所があったらいい」という平沢さんの意見も印象的だった。

2016~2019年ごろ、渋谷文化プロジェクトを担当していた亀田さん

こうした声を受け、亀田さんは「実際の声を直接聞けること自体が貴重でした。皆さんの意見に声を傾け、皆さんの居場所のある渋谷をつくっていきたいです」と語った。セッションの最後に西さんは、「ネット上に情報があふれる一方で、実際に体験し、感じる価値は街に来なければ得られない。今日のような声が、少しずつ未来の渋谷に反映されていくことを期待したい」と語り、意見交換を締めくくった。

登壇者、お越しいただいた皆さんと一緒にハートマークで記念撮影

イベントを終えて

姿を変え続ける渋谷を見ていると、少し複雑な気持ちになることがあるかもしれない。「あの頃の渋谷が好きだったな」と、楽しかった記憶と重なって、どこか寂しさを覚える人もいるはずだ。けれど考えてみれば、渋谷はずっと変わり続けてきた街でもある。自分が心惹かれたあの頃の渋谷も、街の長い時間の流れの中では、一瞬の風景にすぎなかったのかもしれない。これからも、その変化は止まらないだろう。街がアップデートされていくのなら、自分の視点も少し更新してみる。そうすれば、また新しい渋谷の楽しみ方に出会えるはずだ。

20周年記念イベントでは、渋谷文化プロジェクトが20年にわたり、渋谷の「今」をすくい取りながら、新しい視点で街と向き合うヒントを発信し続けてきたことが、あらためて浮き彫りになった。その積み重ねは未来へと手渡され、“開かれたアーカイブ”として、これからも渋谷の進化とともに更新されていくのだろう。

取材・執筆:二宮良太 / 撮影:松葉理

開催場所