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渋三エリアに“小さなミュージアム”誕生へ アートと喫茶が交差する「MINA(ミーナ)」開業
渋三広場

渋三エリアに“小さなミュージアム”誕生へ アートと喫茶が交差する「MINA(ミーナ)」開業

東急は4月1日、渋谷3丁目に小さなミュージアム「Museum of Imaginary Narrative Arts[MINA](ミーナ)」を開業する。現代美術ユニット「L PACK.(エルパック)」をディレクターに迎え、展示空間とカフェを一体化させた新しい文化拠点として運営する。アートを鑑賞するためだけの場ではなく、コーヒーを飲み、食事を楽しみ、会話を交わす日常の延長線上で作品と出合える場所を目指す。

場所は渋谷3丁目・六本木通り沿い、渋谷警察署裏手にある「渋三広場」と呼ばれる空き地。昨年、テント型特設劇場「渋谷 ドリカム シアター(SHIBUYA DREAMS COME TRUE THEATER supported by Page30)」が営業していた場所である。

渋谷三丁目は、緑が多く、静かで落ち着いた街並みが続く

同エリアは渋谷駅に近接しながら、金王八幡宮や渋谷川など古くからの地域資源が残る。周辺には青山学院大学、國學院大学、実践女子大学などがあり、文教地区としての性格も持つ。一方で、「渋谷ストリーム」やイノベーション拠点「SOIL(Shibuya Open Innovation Labo)」の整備を背景に、近年はIT企業の集積も進む。

地元住民、学生、ワーカーが交わるこの街の空気を背景に、MINAは「伝統と革新」が重なり合う渋三エリアの魅力を、アートを通して引き出していく。

「架空のミュージアム」から生まれたMINA

施設名「Museum of Imaginary Narrative Arts[MINA]」の“Imaginary Narrative”は「架空の物語」を意味する。L PACK.の小田桐奨さんと中嶋哲矢さんは、構想段階から「架空のミュージアム」という考え方を軸に据えた。厳密な美術館像をあらかじめ作り込むのではなく、展示や冊子、飲食、街との関わりを重ねながら、この場所ならではのミュージアム像を育てていく試みである。

L PACK.の中嶋哲矢さん(左)と小田桐奨さん(右)

名称の「MINA」は所在地の「渋谷3丁目7」に由来する響きも踏まえて検討。先に「架空のミュージアム」というコンセプトがあり、そのイメージに合う略称として「ミーナ」が生まれ、そこから正式名称「Museum of Imaginary Narrative Arts」へと発展したという。

「Narrative」という言葉には、この場所に集う人々がそれぞれの関わり方で場に参加し、「新たな意味を紡いでいってほしい」という思いも込められている。

展示室とカフェが一体化した新しい場

大きな特徴は、展示室全体がそのままカフェとして機能する点にある。作品を前に静かに過ごすことも、喫茶店のように食事を楽しむこともできる。小田桐さんは「展示室と飲食空間が完全に融合している場所は、たぶんどこにもない空間になるのではないか」と話す。アートに親しんできた人はもちろん、カフェ利用の延長で偶然作品に出合う人も歓迎する。

昼は周辺で働く人々のランチの場に、夜は仕事帰りに立ち寄る一杯の場に、そして学生が気軽に集える居場所にもしたいという。

最近は、なかなか目にする機会の減ったサイホンがカウンターに並ぶ。雑味が少なくスッキリとした後味で、苦みが苦手な人でも飲みやすいコーヒー。

コーヒーは、中嶋さんが自家焙煎した「MINAブレンド」などをサイフォン抽出で提供し、焙煎豆の販売も予定する。

喫茶店の定番メニューとして懐かしい「鉄板ナポリタン」(左)と「ハヤシライス」(右) Ⓒfujico

昭和レトロを感じさせる「プリン」(左)とロゴの「M」を模った「米粉のサブレ」(右) Ⓒfujico

フードは鉄板ナポリタン、ハヤシライス、プリン、レモンケーキなど、純喫茶を思わせる親しみやすいメニューをそろえる。フードは、名古屋を拠点に料理教室を行う「たぐちごはん」が担当。古き良き喫茶文化の感覚を取り入れながら、この場所のためのレシピを考案する。展覧会ごとの限定メニューも用意し、食の面からも展示と呼応する仕掛けを展開していく。

渋谷でありながら、ローカルな表情を持つエリア

L PACK.はこれまで、「コーヒーのある風景」を起点に街の一部となる活動を続けてきた。2019年には大田区池上で東急とコラボレーションし、カフェを拠点としたインフォメーションセンター「SANDO BY WEMON PROJECTS」を立ち上げた実績も持つ。今回の渋三エリアについて中嶋さんは、「渋谷でありながら暮らしに近いローカルな表情がある」と語る。準備中には近隣住民から「何屋なの?」と声を掛けられることも多く、近くに住む人とのやり取りの中で、この街の親密な距離感を感じたという。

実践女子大学や國學院大學の学生が行き交う六本木通り沿いに設けられたテラス席。気温が上がるこれからの季節は、テラスでビールを楽しむのも心地よさそうだ

ただし、この施設は「地域コミュニティ形成」を前面に掲げるわけではない。小田桐さんは「コミュニティは自然に生まれ、育まれていくもの」と話す。アートを強く押し出すことが目的ではなく、その場所に最もふさわしい形を探る中で、「展示と飲食が溶け合うミュージアム」という形に行き着いたと話す。

渋三エリアに“色”を与える実験

東急の稲葉大貴さんによると、「この場所にはもともと古いビルが建っていたが、老朽化と耐震性の問題から解体された」という。その後、コインパーキングにするのか別の活用をするのか検討する中で、「外から見たときに色が見えにくい渋谷3丁目に個性を与え、街を盛り上げられないか」と考えたことが、このプロジェクトの出発点となった。

今回の取り組みは、東急が単に土地を貸すのではなく、オーナーとして企画・運営に関わりながらL PACK.と伴走して進めるプロジェクトである。稲葉さんは「通常の商業施設のようにテナントを入れて終わりではなく、一緒に育てていく新しい形」と位置付ける。

周辺には金王八幡宮をはじめ大学や学校も多く、「歴史」や「学び」の文脈がある。音楽やナイトカルチャーの色が強い道玄坂とは異なり、落ち着いた街並みを持つ渋三エリアでは、アートという切り口がよく似合うという。

MINAの内観の雰囲気。展示企画に合わせて席やテーブルの配置等は変わる

建物は延床面積94.77平方メートルの平屋建て。内装は作り込み過ぎず、展示ごとにレイアウトを変えられるよう可動性の高い家具を中心に構成する。「Imaginary=想像の余白」を残す思想を空間にも反映した。席数は展示内容により変動するが、ベースは約30席。テラス席も設け、街に開かれた使い方ができる空間となる。

初回展は「公共性と広告性」

オープニング展は「公共性と広告性を再編集する/Re-editing the Narratives of the Public」(4月1日~6月21日)。参加作家は彫刻家の菅原玄奨さんと、複数のメディアを横断して活動するアーティストBIENさん。

彫刻家の菅原玄奨さんの作品が店内に複数展示されている

ミュージアムポスターが持つ「広告性」と「公共性」という二つの側面を起点に、アートがメディアとして果たし得る役割を問い直す。「ここで作品を見た後、渋谷の街へ戻ると、広告や公共空間の見え方が少し変わるような体験を生み出したい」(小田桐さん)という。

壁面に掲出中のアーティストBIENさんの写真作品

展覧会は年4回、約3カ月ごとに更新する予定。作家を入れ替えるだけではなく、ミュージアムが本来持つ機能や役割を分解しながらテーマ化していく。初回は「ポスター」、次回以降は「アーカイブ」や「収蔵」など、美術館の機能そのものをテーマとして再解釈していく計画だという。

展覧会に合わせ、メニュー兼季刊誌「COFFEE TABLE BOOK」も発行する。カフェの各テーブルに置かれるメニューを入口に、作品、都市、渋谷文化へと読み進められる冊子で、コーヒーを飲みながら自然に手に取れる構成にする。また、展示解説だけでなく、街とアートの関係を掘り下げた特集も掲載する。冊子は自由に持ち帰ることができ、家で読み返せるメディアとして育てていく。

暫定活用にとどまらない、街の未来への試み

このプロジェクトは5~6年程度の期間限定を想定するが、稲葉さんは「うまくいけば将来の再開発後にもMINAのような機能を取り込む可能性はある」と話す。再開発までの暫定活用にとどまらず、このエリアに必要な文化的機能を試し、街の未来へとつなげていく実験の場でもあるという。

渋谷といえば、大規模開発やにぎやかな商業空間の印象が先行しがちだ。しかし渋三エリアには、暮らしに近い落ち着きや学びの気配、地元の時間が流れている。MINAはそうした街の層に寄り添いながら、アートを特別なものとして隔離するのではなく、日常の中へ静かに差し戻す場所になりそうだ。

コーヒーを一杯飲むことと作品に出合うこと。その二つが無理なく隣り合う、新しい渋谷の風景として期待が寄せられる。

店舗概要
  • Museum of Imaginary Narrative Arts[MINA]
  • 住所:渋谷区渋谷3丁目7-1
  • 開業:2026年4月1日(水)(予定)
  • 営業:11:00~22:00(定休日なし)
  • 公式:https://mina-shibuya.org/

開催場所

取材・執筆

編集部・フジイ タカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。