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渋谷スペイン坂に本とアートの複合空間「NONLECTURE」 書店でもギャラリーでもない“自由な場”に
2026-04-01
渋谷スペイン坂に3月13日、本とアートの複合スペース「NONLECTURE books/arts powered by Goldwin(ノンレクチャー ブックス/アーツ)」がオープンした。場所は、コメ兵の旗艦店「KOMEHYO SHIBUYA」が店舗を構える「渋谷ZERO GATE(ゼロ・ゲート)」の地下1階。渋谷PARCOが運営する同施設内に開く新拠点で、書籍、アート、展示、イベント、プロダクト、ドリンクなどを横断しながら、都市のなかで新たな感性の接点を生み出す場を目指す。


「KOMEHYO SHIBUYA(コメ兵)」側ではなく、スペイン坂沿いの入口から地下へ下る


地下2階相当の長い階段を下ると、隠れ家的なショップが見えてくる
店を手がけたのは、TOWER BOOKS、代官山蔦屋書店、BOOKMARC原宿などで洋書やアートブックの選書、企画、ディレクションを担ってきた持田剛さん。長年にわたり本とアートの現場に関わってきた経験を生かし、自らの場として立ち上げた。

「NONLECTURE books/arts」を手がける持田剛さん
「原っぱ」のように過ごせる自由な空間
店舗面積は約120平方メートル。「NONLECTURE(ノンレクチャー )」という店名は、米モダニズム詩人E.E.カミングスの著書タイトル「i:six nonlectures」に由来する。持田さんによれば、カミングスはハーバード大学での連続講義で詩の技法を教えるのではなく、自身の生き方そのものを語ったという。その伝説的な講義に着想を得て、「書店でもない、ギャラリーでもない、もっと自由な空間を目指したかった」と話す。

もともとクラブやスポーツジムの跡地である同スペースは、地下にありながら天井が高く、閉塞感を感じさせない
空間づくりの背景には、建築家・青木淳さんの著書『原っぱと遊園地』の考え方を取り入れたという。一般的に商業施設は、動線や楽しみ方のルールをあらかじめ定める「遊園地」的な場になりがちであるが、それでは面白くない。同店は、訪れた人がそれぞれのペースで過ごし、偶発的な出会いを楽しめるドラえもんに出てくる「原っぱ」のような場を志向する。


書籍のほか、DJブ-スも備え、各種イベントにも対応

オリジナル、コラボ商品の販売や、アートやデザインの展示など、カルチャーの複合スペースとなっている
店内には本棚やギャラリー展示壁のほか、音響機材も備え、ワインやクラフトビール、コーヒーなどのドリンク類も提供。展示を見ながら飲み物を楽しめるほか、今後はトークイベント、DJイベント、ミニライブなども予定する。ただし、「あまり商業的すぎるイベントは行わないかも」といい、場づくりにこだわりを見せる。
洋書とアートブック約1500冊 初心者から玄人まで
並ぶ書籍は、アート、写真、ファッション、映画、思想などを横断する洋書やアートブックが中心。初期蔵書は約1500冊、タイトル数では700~800点ほどという。

入口付近には初心者でも手に取りやすい本を並べる一方、棚には持田さん自ら買い付けた希少本やマニアックなタイトルも差し込み、「初心者から玄人まで楽しめる」構成にした。世界各地の出版社カタログをもとに、その時々の刊行動向を反映しながら選書していくという。

渋谷の中心地でありながら、同店が前面に押し出すのは、アニメや漫画といった現在の“わかりやすい渋谷カルチャー”とは異なる方向性だ。持田さんは10代の頃から渋谷で働き、この街の変化を見てきた一人。近年増える訪日客の存在も意識しつつ、「洋書をベースにしているのも、インバウンドの人たちに楽しんでもらいたいから」と話す。

スクリーン内外のダンスシーンをまとめた作品『On the Dance Floor』やファッションエディターのクリスチャン・シュテムラーによる作品集、デビット・ボーイのビジュアルブック、SPECTATORの『PUNK』など、ダンスやファッション、音楽など幅広いカルチャーシーンに関する書籍が並ぶ


都築響一の『TOKYO STYLE』『HAPPY VICTIMS』、リトアニア出身の映像作家ジョナス・メカスのスクラップブック、リン・ゴールドスミスが撮影したパティ・スミス写真集など、多彩なビジュアルブックが書棚を彩る
その一方で、渋谷の街にすでにたくさんあるアニメや漫画などポップカルチャー系コンテンツとは距離を置き、「もっとストレートなアートを中心にプレゼンテーションしていきたい」とも語る。
ゴールドウィンの哲学と響き合う常設スペース

ゴールドウィンのスペースでは、「自然」などをテーマにした書籍が並ぶ。スティーブ・ジョーブズがバイブルとしていたことでも知られる、1968年にスチュアート・ブランドが創刊したカタログ雑誌「Whole Earth Catalog」も
店内には、アウトドア・スポーツアパレルメーカー「Goldwin(ゴールドウイン)」の常設スペースも設ける。同社が掲げる「人を挑戦に導き、人と自然の可能性をひろげる」というパーパスに基づき、自然、素材、身体、思想を横断する約100冊の選書棚や、ブランドのフィロソフィーを伝える展示を展開する。持田さんは、ゴールドウインについて「環境や自然を含めながら、アートやファッションにも手を伸ばしている、懐の深いブランドという印象があった」と話し、自ら企画を持ち込んだ経緯を明かす。


写真家・柏田テツヲさんの写真展「Boundary」の展示
オープニング企画として、 Goldwin Roomでは、写真家・柏田テツヲさんの写真展「Boundary」を同13日から開始。「人と自然の境界はどこにあるのか」を問い直す作品群を通して、常設スペースの思想とも呼応する展示を展開(5月10 日まで)。

イラストレーター・ジェリー鵜飼さんの個展「Zen Hiker」の展示
一方、メインスペースではイラストレーター・ジェリー鵜飼さんの個展「Zen Hiker」を4月5日まで開催する。山を歩く身体感覚や、自然の中で不安や悩みがほどけていく感覚を描いた作品群を紹介する。さらに壁面のポップアップスぺースでは、海外直輸入のポスターを販売する特殊ポスターショップ「SOONER OR LATER(スナー オア レイター)」の展示も行う(5月10日まで)。

海外直輸入のポスターを販売する特殊ポスターショップ「SOONER OR LATER」の展示
ワインやコーヒーも充実 “角打ち感覚”で立ち寄れる場所へ
ドリンクにもこだわりがある。ナチュールワインやクラフトビールは、フードスタイリスト米田牧子さんが主宰する「wine&deli kokiliko(コキリコ)」がセレクトし、メスカルやテキーラは下北沢の角打ち酒屋「万珍酒店(マンゴスチン)」から仕入れ。コーヒー豆は下馬のコーヒーロースター「Sniite(スニート)」が自家焙煎した豆を扱う。持田さんは「普通のバーではなかなか飲めないタイプの酒やドリンクがそろっている。角打ちのように気軽に立ち寄ってほしい」と話す。

珍しい酒やドリンクがそろう。ワインやコーヒーを飲みながら店内を巡り、新しい本との出合いが楽しめる
渋谷は1970年代以降、音楽、ファッション、アートなど多様なカルチャーの更新点であり続けてきた街である。再開発が進み、街の表情が大きく変わるなかで、NONLECTUREはにぎわいや消費のためだけではない、もう一つの滞在のあり方を提示しようとしている。本を手に取り、作品を眺め、酒を飲み、会話を交わし、また戻ってくる。そんな大人が楽しめる緩やかな場所が、スペイン坂に新たに加わることになりそうだ。
営業時間は11時~21時。
- NONLECTURE books/arts
- 住所:渋谷区宇田川町16−9 渋谷 ZERO GATE(ゼロ・ゲート) B1
- 営業:11:00〜21:00
- 公式: https://nonlecture.jp/








