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SHIBUYA × INTERVIEW

豊かな自然や歴史が育むペルーの魅力を渋谷の街から発信し続けたい
パトリシア・エスカランテさん
ミゲル・エスカランテさん

アルパカニット製造・販売「ロイヤルアルパカ」/ペルー料理店「ミラフローレス」

豊かな自然や歴史が育むペルーの魅力を
渋谷の街から発信し続けたい

プロフィール

パトリシア・エスカランテさん(写真右)
「ロイヤルアルパカ」を運営する有限会社ベルーチインターナショナル代表取締役。1991年、19歳で来日して以来、日本で生活して。2003年、渋谷桜丘町にペルー料理店「ミラフローレス」をオープン。2011年には、日本にペルー文化を広めた功績が評価されてペルー共和国大統領から文化勲章を受章。

ミゲル・エスカランテさん(写真左)
2021年、大学在学中にペルー料理店「ミラフローレス」飲食部・統括マネージャーに就任。ミラフローレスのマネジメントのほか、ロイヤルアルパカの運営にも携わる。テレビなどのメディアを通してペルー文化を発信する活動にも積極的。

約30年前に来日してペルーの文化を日本に広め、本国では文化勲章を受けているパトリシア・エスカランテさん。現在は息子のミゲルさんも加わり、アルパカ製の高級ニットを製造・販売する「ロイヤルアルパカ」、そして渋谷桜丘町にあるペルー料理店「ミラフローレス」の経営を通じて、日本人にペルーの魅力を伝え続けている。

バブル時代に来日。アルパカニットの大ヒットで移住決意

はじめに、パトリシアさんが来日された経緯をお話ください。

パトリシアさん はじめて来日したのは19歳のころ。私の家では祖父母の代からアルパカの毛で編んだニットを製造・販売する事業を営んでいます。1991年にジェトロ(日本貿易振興機構)から招へいされ、初めて日本でファッションショーを開くことになったのですが、ちょうどヨーロッパでのイベントと重なっていたため、まだ若かった私が代理で来日することになったのです。

19歳で初来日した当時を振り返えるパトリシアさん

日本での反応はどうだったのでしょうか。

日本から見てペルーは地球の反対側ですし、文化や言葉が異なるため、アルパカニットはほとんど知られていませんでした。ところが、製品を見ていただくと予想以上の反響があり、数百着もの注文が入って百貨店からも取引をしたいとの申し出を受け、当初2週間の滞在予定が伸び伸びになりました。当時、日本がバブル経済に湧いていたこともあったのでしょう。

その後、取引先が百貨店の地方支店にも広がり、販売後のアフターケアの拠点も必要になったため、両国間を行ったり来たりするのでは追いつかなくなって、東京に事務所を設置し私が代表を務めることになりました。母は唯一の娘の私にはずっとペルーにいてほしかったようですけどね。今ではペルーよりも日本での生活が長くなりました。2011年には、アルパカニットを日本に広めた功績が評価されて、ペルー大統領から文化勲章を受けました。

日本で生まれ育ったパトリシアさんの息子・ミゲルさん。現在、「ミラフローレス」飲食部・統括マネージャーとしてパトリシアさんを支える。

アルパカニットにはどういった特徴があるのでしょうか。

ミゲルさん アルパカは寒冷なアンデス高原で育つため、その毛で編んだニットはウールの8倍といわれるほどの温さがあります。さらに非常に軽いうえに、アルパカの持つ特有の油のおかげで汚れや虫食いを防げる効果もあります。

ニットの製作には非常に時間と手間がかかります。当社ではペルーにある自社工場で1着につき3ヶ月~半年をかけて、職人が一つひとつ手編みをしています。さらに販売後は、いつでもクリーニングやお直しなどに対応しています。アルパカニットは、カシミヤなどと同等の高級品として扱われており、価格は一着数万~数十万円と少々高価ですが、一度購入すると“一生モノ”としてずっと着られますし、お子さんやお孫さんへと引き継がれて使っていただくケースも多いですね。

ミラフローレス店内にあるアルパカの人形。標高3,500~5,000mのアンデス山脈の高地で飼育され、その細くてしなやかな毛は古くから高級毛織物として知られる。

本国からシェフを呼び寄せて、現地の味を忠実に再現

その後、ペルー料理店「ミラフローレス」を渋谷にオープンされた経緯は?

パトリシアさん 渋谷にミラフローレスをオープンしたのは2003年のこと。当時、南米の労働者が集まる街などにペルー料理を出す大衆的な食堂はあったものの、都内には伝統的なペルー料理レストランが見当たりませんでした。そこで、ぜひ日本の方々にペルー料理の味を知ってほしいと思ったんです。

セルリアンタワーから徒歩1分の裏路地に位置する「ミラフローレス」。「ペルー料理」の文字が書かれている白い看板が目印。赤と黄色の渦巻きは、古代インカ文明の文様をモチーフにしている。

店名のミラフローレスは、私が生まれ育ったペルーの首都リマにある地区の名称です。ファッションやグルメの店が建ち並び、若者が集まるおしゃれで洗練された地区であり、その街の雰囲気にとてもよく似ている渋谷に出店したいという思いがありました。

なによりこだわったのは、本場の味を忠実に再現すること。そのために、私が子どものころから家族で通っていたペルー料理の有名なレストランのグランドシェフのビクトルさんに料理を任せたくて。突然、「日本でレストランのシェフをお願いしたい」とお願いされて戸惑うのは当然で最初は渋っていましたが、1年がかりで説得してようやくオープンにこぎつけました。以来、20年以上にわたり彼がミラフローレスのグランドシェフを務めています。彼も日本での生活をとても気に入ってくれています。

シェフ フランシスコさん(左)、グランドシェフ ビクトルさん(右)

自然や歴史の影響を受けて豊かな食文化が発展

ペルー料理はどのような魅力があるのでしょうか。

ミゲルさん まず他民族の影響を受けていることが大きな特徴ですね。スペイン植民地時代の影響が色濃いほか、先住民や中華系労働者、アフリカ人奴隷、さらには日本人移民などの料理が融合して形づくられてきました。スペイン料理といえばパエリアが思い浮かびますが、それに似たアロス・コン・マリスコスというペルー料理があります。これは直訳すると「ご飯と海鮮」。パエリアにはサフランを使いますが、アロス・コン・マリスコスはトマトベースで煮込みます。

人気メニューのANTICUCHO DE CORAZON(特性タレ漬け牛ハツのバーベキュースタイル。2000円)。牛の心臓を使った串焼き肉。ペルー料理の調味料として欠かせないアヒバンカ(トウガラシ)を使った秘伝のタレに漬け込んでいる。

ペルー産の紫トウモロコシ。ペルーで日常的な飲料として知られる「Chicha Morada(チチャモラーダ)」は、紫トウモロコシを煮出し果物やシナモンなどを加えて作る。ポリフェノール、アントシアニンがたっぷりで健康にも良いという。

ペルーは、太平洋沿いの海岸地帯、アンデス山脈がつらなる山岳地帯、アマゾンが広がる熱帯雨林地帯と、気候が大きく3つの地域に分けられ、多様な食材に恵まれていることも特徴です。たとえば、ジャガイモや一部のトウモロコシはペルーが原産といわれており、ペルー料理にはとてもよく使われます。現地のスーパーに行くと、数十種類のジャガイモが並んでいることに驚くかもしれません。海岸地帯では魚介類もとれるので魚食文化もさかんです。現地ではマリネのような料理で生魚を食べる習慣もありますが、これは日本人移民の影響ともいわれています。

CEVICHE MIXTO(フレッシュシーフードのマリネ。2400円)。新鮮な魚介類を玉ねぎ、にんにく、唐辛子などで合わせてレモン汁で締めている。日系移民が多いため「生魚を食べる文化」が浸透し、セビーチェ・ミクストはペルーを代表する料理の一つ。

ペルーではどのようなお酒を飲むのでしょうか。

ミゲルさん ビールの人気が高いですね。私たちの店でも、クスケーニャ、クリスタル、ピルセンというペルービールを出しています。ペルーは南半球で暑いため、ビールはサラッとした飲み口が特徴です。それからピスコというぶどうの蒸留酒もペルーの発祥です。植民地時代、スペイン本国より質の高いぶどうが取れたのですが、本国からワインの製造が禁止されたため、もったいないから発酵酒にしたという説があります。いろいろな飲み方がありますが、果汁などを加えたピスコサワーがポピュラーです。

ミゲルさんが手にしているのが「インカコーラ」。1935年に発売されて以来、「ゴールデンコーラ」と呼ばれてぺルー人に愛され続けている国民的な飲料。

アルコールではありませんが、インカコーラもペルー人の食卓には欠かせません。ペルー発祥の炭酸飲料で、数種類のハーブを配合した甘い味わいが特徴です。

ペルー料理は、日本でもポピュラーになりつつあると感じますか。

ミゲルさん そう思いますね。気軽な感じで来店してくださるお客様は増えていますし、当店以外にもペルー料理レストランは増えつつあります。私自身、3年前に母からマネージャーを引き継いでから、テレビなどのメディアでペルー料理について発信することに努めています。

渋谷はエリアや通りにより人の層が異なるのが面白さ

渋谷という街にはどのような印象をもっていますか。

ミゲルさん 幼いころからお店に出入りしていたので、私にとってはとても身近な街です。ディープなサブカルの街というイメージがあり、探検する感覚で歩いていました。生活圏は池袋に近かったのですが、大学生になったころから友だちと会う時など渋谷を訪れることがますます増えました。近年は再開発が進んで街はだいぶきれいになりましたが、人が多くてにぎやかなところは変わりませんね。

パトリシアさん 生まれ故郷のミラフローレスと似た雰囲気をもつこともあって、渋谷は大好きな街です。今、ミラフローレスは1軒ですが、以前はスペイン坂と恵比寿にもお店を構えていました。現在店舗のある桜丘とはお客さんの入り方が違い、結局、2軒の支店は閉めることになって反省もあるのですが、そのことからも渋谷はエリアや通りによって行き交う人の層が大きく異なることが面白さだと知りました。

最後に、今後の夢や目標をお話ください。

パトリシアさん アルパカニットを愛用される方は増えてきていますので、もっとかわいいニットを作って喜んでいただきたいと思います。そして、ペルーのおいしい料理をより多くの人に味わっていただきたいです。こうした事業を通じて、日本の方々にもっとペルーを知ってもらえるとうれしいですね。

ミゲルさん 今よりもペルー料理をポピュラーな存在にしていきたいですね。渋谷の街を訪れたら、フラっと立ち寄れる身近な居場所として利用していただきたいです。今後、お店を増やすことも検討するなど、ペルーについてもっと発信できる方法を考えていきます。

ミラフローレスで働くスタッフの皆さん

店舗情報

店名:ペルー料理 ミラフローレス 渋谷桜ヶ丘店(Miraflores)
住所:東京都渋谷区桜丘町28-3 恒和ビル1F
電話:03-3462-6588

セミナリオ駐日ペルー大使 特別インタビュー

渋谷区との姉妹都市提携で、両国の関係強化に期待

ペルー共和国 ロベルト・セミナリオ駐日ペルー共和国特命全権大使 (撮影:ミラフローレス店内)

2024年6月、渋谷区とペルー共和国リマ市ミラフローレス区は、姉妹都市連携に関する覚書を締結しました。

ミラフローレス区は、スペイン植民地下で副王領の首都に指定されたリマにある地区です。現在この地区は、ビジネスや観光が活発で文化も洗練されており、多くの若者でにぎわっています。こうした街の特徴が渋谷区と共通するため、両区長が対話をする場を設けたことで今回の姉妹都市連携が実現しました。今後、文化・教育・観光・スポーツ・環境・科学・技術・イノベーションなどさまざまな協働につなげていくことを計画しています。

すでに渋谷区は世界的な観光都市としてインバウンドを受け入れており、“オーバーツーリズム”が課題の1つになっているほどです。一方で、海外からミラフローレス区を訪れる観光客はまだ多くありません。そうした側面でもミラフローレス区が渋谷区から学べることは大きいと考えています。

日本人にとってペルーといえば、マチュピチュ遺跡などのイメージが強いかもしれません。確かにそれらはペルーの代表的な観光地ですが、そのほかにも日本の方々に魅力を感じていただける要素がたくさんあると信じています。

ペルーは気候のバリエーションが豊富で、海岸や山岳地帯、ジャングルなど、訪れる場所によって全く異なる景色を目の当たりにできます。インカ帝国や植民地時代など、さまざまな文化が今に息づくことも大きな魅力です。

2023年には、日本とペルー共和国の外交関係樹立150周年にあたり佳子さまがリマをご訪問されたことで、両国の関係はますます近くなりました。地球の裏側とあって距離的に少々遠いと感じるかもしれませんが、少しだけ仕事から離れて訪れていただけたら素晴らしい冒険が待っていることをお約束いたします。

今すぐに飛行機に乗るのが難しければ、お近くのペルー料理レストランを訪れるのも、ペルーの文化に触れる良い方法でしょう。ペルーは先住民族やスペインに加え、各国移民の影響を受け、料理が非常に発達した地として知られています。パトリシアさんの経営するミラフローレスはもとより、日本にあるペルー料理レストランはどこもクオリティが高いため、きっと満足していただけるはずです。

これからも日本とペルーの両国がより良い関係を築いていくことを願っています。

取材・執筆:二宮良太 / 撮影:松葉理