SHIBUYA × INTERVIEW
合同会社CGOドットコム代表
渋谷からギャルマインドを発信し
日本社会を「アゲ」にする
2025-01-15
山梨県甲府市生まれ。高校中退後、大阪へ家出しギャルマインドに感銘をうける。「ギャルマインドで世の中をアゲにする」ことを目指し、2022年に合同会社CGOドットコムを設立。企業や団体にギャルを送り込む「ギャル式ブレスト®︎」などの事業を展開。2023年、「Forbes Japan 世界を救う希望100人」に選出される。バブリーという名前は、本名の竹野理香子の「竹(バンブー)」と「理香子」に由来。
「ギャル」というと、ちょっと近寄りがたいイメージを持つ人もいるのでは。だが、もしかしたらギャルマインドの秘めるパワーは、日本の閉塞した空気を大きく変えてくれるかもしれない。そんな信念を抱き、ギャル文化の発祥の地である渋谷を拠点として、ギャルマインドを社会実装する事業を展開する総長バブリーさんに話を聞いた。
優等生だった自分がギャルに出会い、はじめて自分を好きになれた
ギャルマインドに目覚めたきっかけをお聞かせください。
中学まではいわゆる優等生でしたが、地元の進学校の高校に登校した初日、担任の先生から「東大に行きなさい」と言われて、そこではじめて自分の人生が他人に決められていることに気がつき違和感を覚えました。今振り返ると、他人の評価ばかりを気にして自己表現のできない人間になっていたのです。
それを機に自分が本当にやりたいことを考え始めると、しだいにモヤモヤとした感情がつのり、16歳の時に学校に行けなくなって家出をしました。そんな時、私を救ってくれたのが「ギャル」でした。家出先の大阪で出会ったギャルたちが自分自身の直感を信じて力強く生きる姿を見て、とても勇気づけられたのです。その後、家に戻った私は高校を辞めてギャルになり、はじめて自分のことを好きになれました。
どのようにギャルマインドを事業につなげたのでしょうか。
ギャルの中には賢い人が多いのに、自分の能力を活かせる働き口に出合えていないケースが多いです。そこには教育・経済格差による選択肢の不平等さがあるのではないかという課題意識をぼんやりと感じていました。そんな頃、社会課題に向き合っているNPO法人ETIC.に出合い、3年ほどインターンとして働いたことが、今の活動の原点です。
その後、ギャルマインドを何とか社会課題の解決に生かしたいなと考えていると、「俺は湘南のギャル男だった」という男性に出会いました。彼は上司に忖度して部下に気を遣う毎日を送り、「ギャルマインドを持てなくなった」と嘆いていました。そんな出会いからもヒントを得て、企業の人とギャルが話をしたらどんな化学変化が起こるのかを見てみたいと思ったんですね。
実際、実証実験という形で企業の人とギャルが話すワークショップを開催すると、相手に忖度せず直感的にふるまうギャルに触発されて、はじめは肩書や立場にしばられていた企業の方々がしだいに自由な発言をするようになりました。そんな経験から企業の会議にギャルが入ってフラットな関係でディスカッションをする「ギャル式ブレスト®︎」のアイデアが生まれました。実際に参加された方からは、「こんなに部下が発言しているのをはじめて見た」「もっと自由な発想でいいと気がついた」といったポジティブなコメントをいただいています。
心の中にギャルを飼うと、自分らしさを取り戻せる
具体的にどんなディスカッションが行われているのでしょうか。
ギャル式ブレスト®︎では、「タメ語で話す」「お互いをあだ名で呼び合う」「リアクション多め」などといったルールを定めています。一例を紹介すると、大手文具メーカーさんとの取り組みでは、デジタルの普及により書く文化がすたれつつあることを受け、新たな事業展開の兆しを見出したいという思いから、ギャル式ブレスト®︎を行いました。そこではギャルから「鉛筆ってエモいよね」という考えが出されて、「書くだけじゃなくて、元カレの匂いとかを思い出させるような筆記用具を作ってほしい」といったアイデアも出てきました。「墓石は見た目がさみしいので(文具で)デコりたい!」なんて意見もありましたね(笑)。このように、ギャルマインドを起点に現状をポジティブに変換する自由闊達なアイデアブレストになりました。
最近では、JR貨物さんの倉庫に眠る大量のレールなどの廃材をいかに活用してアップサイクル商品を生み出し、企業としての思いを世の中に伝えるかを考えるブレストを行いました。「廃材」を「アゲ」に変えるという視点から、ユニークなアイデアがたくさん出ましたよ。その1つが、「推しへの思いを届けたいが、重すぎて持ち上げられないアクスタ」という古いレールを使ったアップサイクル商品のアイデアです(笑)。
突き詰めると、「ギャルマインド」とはどのようなものなのでしょうか。
CGOドットコムとしてはギャルマインドとは、「自分軸」「直感性」「ポジティブ思考」という3つの要素で構成されているものと定義しています。「自分はこれがしたい」という思いを貫くのが「自分軸」、「それいいじゃん!」「超かわいい!」などと自分の感情を素直に表現するのが「直感性」、そして物事を前向きに推進していく気持ちが「ポジティブ思考」です。
私自身もそうですが、ギャルの中には抑圧されて生きづらさを感じた経験のある子が少なくありません。それがどこかで爆発して自己表現をした先に、ギャルという器があって救われたのです。これは性別や立場を超え、多かれ少なかれ、誰もが「〇〇なのだから、こう振る舞うべき」といった押し付けに苦しんでいます。そこにギャルマインドを注入することで自分らしさを取り戻せることがあるはずです。とはいえ、「常にギャルになれ」と言いたいのではなく、「心の中にギャルを飼う」という気持ちで、ときにはギャルマインドを発揮してみると、気持ちが軽くなると考えています。
渋谷には、多種多様な人たちが接続し合える多様性がある
総長バブリーさんは、ずっと渋谷を拠点に働かれていますよね。
たまたま渋谷からスタートしましたが、今では居心地の良さを感じていますね。その理由を考えると、大企業や起業家、投資家がいるかと思えば、すぐ隣にギャルやヒップホッパーがいるなど、不思議なカオスさがあるからでしょう。このような街は、日本にはほかにないですよね。いろんなバックグラウンドを持つ人たちが自然と接続し受け入れ合える多様性があるから、新しいものが生まれるのかもしれません。私自身も起業家として、街で起きていることや人が考えていることをリアルタイムで理解する上でも、渋谷を拠点として活動することの意味は大きいですね。
最近は、渋谷のインバウンドに関する事業も展開されていますね。
私たちから見ると、外国人観光客って不思議な行動をするじゃないですか。ガチャガチャに群がっていたり、街なかをストリートカートで走り回っていたり。単純になぜなのだろうという疑問から、「渋谷欲望調査隊」と名付けてインバウンド調査を始めました。すると、意外なことが分かってきたんです。例えば、ストリートカートに乗っている人に話を聞くと、「街と一体化できる」「知らない手を振ってくれるのがうれしい」といった答えが返ってきて魅力を理解できるようになりました。
こうしたインバウンド調査を通じて、渋谷が外国人観光客をひき付けるのは、人や街とつながりやすいことに理由があると思っています。私たちも海外旅行をすると、整備された観光地にも行くことも多いと思いますが、やはり現地でしか経験できないような体験をしたいですよね。ぶらぶらと街を歩きながら人や食やカルチャーに触れられる渋谷は、そんなローカルを体験する場所として最適です。私も渋谷のクラブに遊びに行くと隣にいる外国人観光客と乾杯するのがすごく楽しいのですが、このように人がわけ隔てなく一緒に楽しめる街であることが、渋谷の面白さだと感じています。
多様な人が語り合いながら進んでいく社会をつくりたい
渋谷の再開発などにともなう変化はどう受け止めていますか。
良い面では多様性の幅が広がっていると感じます。若者だけではなく、企業が増えたことで街を行き交う人がより多様になりましたよね。一方で、ギャルの居場所は少なくなったり、地価が上がることで小さなショップの経営が難しくなったりしている現状は、どうにかしたいという気持ちがあります。
渋谷の街における規制についても気になるところがあります。例えば、昨年路上飲酒が禁止されましたが、もう少し議論の余地はあったのではないかと感じました。外国人観光客の間では路上飲酒がOKというのは、ある種、日本ならではなコンテンツの一つになっているんです。もちろん、街の治安維持の観点ではすごく理解できますが、ルールを自治体が決める前に多様な人が話し合うプロセスを大切にしないと、街がどんどん規制される一方になりかねないと危機感を抱いています。
今後の活動のビジョンをお聞かせください。
引き続きギャル式ブレスト®︎の社会実装に取り組んでいきます。先日テレビの選挙特番にコメンテーターとして出演した際に痛感しましたが、今の日本の政治の世界には多様性があるとは言い切れませんよね。例えば、議会にギャルやミュージシャン、ダンサーがいたら、これまでとは違った日本の未来が議論できるのではないでしょうか。私たちの活動を通じて、多様な人が語り合って前に進んでいけるような社会を実現したいと強く思っています。