ここ数年、渋谷で開催される「都市型盆踊り」が人気を集めている。

盆踊りといえば、町会や地域コミュニティを中心に、「昭和」感が漂うローカルな夏祭りというイメージが強い。昨今では地域コミュニティの縮小や世話役の老齢化に伴い、昔ながらの伝統的な盆踊りの継続が難しくなっている地域も少なくないことだろう。

一方、渋谷駅周辺では2017年、「渋谷の街の人たちと渋谷に来る人たちの交流の場をつくる」をテーマに、SHIBUYA109前・道玄坂・文化村通りを会場とした「渋谷盆踊り」がスタート。それ以来、住人や商店街、地元企業、買い物客、外国人旅行者らが一緒に楽しめるお祭りとして定着している。

渋谷駅直上、地上約229mの高さにある屋上展望空間「渋谷スカイ」で開催される「ROOFTOP 盆踊り」。

さらに、渋谷スクランブルスクエア屋上展望施設「渋谷スカイ」で開催される「天空の盆踊り」や、渋谷キャストの「BON CAST.」、宮下公園の「SHIBUYA MIYASHITA PARK BON DANCE」など、再開発で新たに生まれた大型商業施設では、「盆踊り」をテーマとした野外フェス企画が増え始めている。これらの都市型盆踊りは、国籍や年齢を超えて多くの人が参加できるコンテンツとして、特筆すべき盛り上がりを見せている。

エンターテイメント性の高い「非日常的な体験」

昨年は石垣島の3人組バンド「BEGIN」がライブや、盆踊りの伴奏を行った。

こうした背景には、単なる「お祭り」というだけでなく、エンターテイメント性の高いイベントとしての進化がある。「東京音頭」「大東京音頭」「河内おとこ節」「炭坑節」などの伝統的な盆踊り曲だけでなく、ポップスやアニソンなど現代的な音楽を取り入れた選曲で幅広い参加者にリーチ。また、盆踊りの振り付けは簡単で覚えやすく、誰でも飛び入り参加しやすいというハードルの低さも魅力だ。

さらに、伝統的なやぐら太鼓だけでなくクラブDJによるサウンドや華やかな照明、ダンサーによるパフォーマンス、アーティストのライブなど、都市型盆踊りならではの斬新な演出で「非日常的な体験」を提供する。これにより、参加者が写真や動画をSNSに投稿しやすく、さらに多くの人々の興味を引きつける連鎖も生み出している。

インバウンドを誘因する「日本文化の体験」

昨年の渋谷盆踊りの様子。見よう見まねで盆踊りを楽しそうに踊る外国人旅行客の姿が目立った。

もう一つの大きな魅力は、インバウンド客の誘致に効果を発揮している点である。日本文化を体験できるイベントとして外国人観光客から注目を集め、地域活性化に貢献している。外国人観光客数は過去最高を更新する一方、地元の人々との接点はなかなか得にくいものであるが、見よう見まねで飛び入り参加する外国人の姿も案外多い。カタコトの英語で、 訪日外国人向けに盆踊りの歴史や踊り方を教えるなど、盆踊りを通じて国際交流が自然と生まれている。コロナ禍では外出自粛が続いたが、人が集まるイベントが徐々に復活しつつある中で、盆踊りは人と人との交流の場として新たな役割を果たしている。

昨年の渋谷盆踊りの様子。SHIBUYA109前、道玄坂、文化村通りを交通規制し、道路の真ん中にやぐらを組み立て、盆踊りを行った。国籍や年齢を問わず、様々な人びとが大勢参加した。

都市型盆踊りが人気を集める要因は、多様な価値観やニーズに対応すること、エンターテイメント性や非日常体験の提供、ソーシャルメディアでの拡散と情報発信、外国人観光客の誘致と地域活性化、コロナ禍における新たなコミュニケーションの場の提供など、複数の要素が絡み合っている。渋谷は、こうした複合的なニーズを満たす魅力的な都市の一つであるといえる。ハロウィーンではいろいろな問題が生じたが、渋谷の盆踊りは今後も進化を続け、多くの人々に愛されるコンテンツとして発展・継続していってもらいたい。

さて今年、渋谷周辺で予定される盆踊りイベントのスケジュールをご紹介する。ぜひ、浴衣を着て家族や友人らと一緒に参加してみてはいかがだろうか。

取材・執筆

編集部・フジイ タカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。