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宮益坂で新規出店ラッシュ―“再開発までの余白”を生かしたまちの動き
宮益坂下

宮益坂で新規出店ラッシュ―“再開発までの余白”を生かしたまちの動き

渋谷・宮益坂地区では、大規模再開発事業「宮益坂地区第一種市街地再開発事業」が進行中だ。2027年度の着工、2031年度の竣工・開業を目指す計画で、渋谷駅東口の景観を大きく変えるプロジェクトである。だが、解体工事の本格着手はもう少し先のこと。今、この坂道では「再開発までの余白」を活かし、早期に閉店したテナント跡を再利用する新たな動きが生まれている。

再開発の合間に宿る、新しい営み

再開発の決定を受けて早めに退去したテナント跡に、近ごろ新しい店舗が続々とオープンしている。今年5月、藤和宮益坂ビル1階に開店した「The British Shop(ブリティッシュショップ)」は、イギリス直輸入の紅茶やジャム、ショートブレッドなどを扱う食料品店だ。落ち着いた店内にはロンドンの街角を思わせる雰囲気が漂い、道行く人の足を止める。インポートグロサリーというニッチな業態ながら、再開発前のエリアに新しい文化的彩りをもたらしている。

2025年5月にオープンした英国食品店「The British Shop(ブリティッシュショップ)」(渋谷1丁目14−9)

再開発を控えた物件は営業期間が限られるものの、家賃を抑えられる場合も多く、出店者にとっては新たな挑戦のチャンスにもなる。外装や内装に大きな投資をせず、短期間での運営を前提にトライできる点も、再開発エリアならではの利点といえるだろう。

2025年6月にオープンしたたい焼き専門店「たい焼き さわ田」(渋谷1丁目14−18)

通りを少し下った第2小林ビル1階には、6月にたい焼き専門店「たい焼き さわ田」がオープン。焼きたての香ばしい香りに誘われ、外国人観光客が立ち寄る姿も目立つ。再開発を控えた街並みに、どこか温かみのある風景を添えている。こうした小さなお店が、再開発の合間に「新しい食文化」を生み出しているのも宮益坂の今の特徴だ。

小林ビルの2~3階部分は「goodoffice 渋谷駅前」として運営をグッドルームに委託し、ラウンジスペースやオフィスフロアとして貸し出している

第2小林ビルに隣接し、宮益坂下の角地で東口エリアの顔となっている「小林ビル」B1~5階部分では、2021年から建物の有効活用を目的にリノベーションが行われ、シェアオフィス「goodoffice渋谷駅前」が運営されている。グッドルーム(gooddaysホールディングス子会社)が内装リノベーションから一棟の借り上げ、運営までを手掛けたもので、老朽化した設備やレイアウトを刷新し、現代的で機能的な空間に生まれ変わった。2階はラウンジスペースとして個人利用や貸切イベントに対応、それ以外の階はオフィスフロアとして複数社に貸し出しており、短期間ながらも再開発までの「つなぎの空間」を柔軟に活かす好例となっている。駅前という立地も手伝い、稼働率は高く、まちの人の流れや仕事の営みを支える存在となっている。ちなみに同4階には現在、韓国発の人気チキンバーガーチェーン「MOM'S TOUCH 」が東京本社を構えている。

「b8ta Tokyo」跡地に「ダイコクドラッグ」(渋谷1丁目14−11)がオープンした

さらに、同ビルの1階には、テクノロジー企業の実験店舗「b8ta Tokyo – Shibuya」があったが、9月に閉店。その跡地にはドラッグストア「ダイコクドラッグ」が10月27日にオープンしたばかりだ。かつて最新リテールを体験する空間だった場所に生活必需品を扱う店舗が入るという対比は興味深い。ハチ公口側に比べて東口エリアはドラッグストアが少なく、一定の需要が見込まれそうだ。

“一等地”に出店する意味

道路を挟んで向かいの「りそな銀行渋谷支店」跡地の1・2階には、家具・インテリアブランド「LOWYA(ロウヤ)」の体験型店舗「LOWYA渋谷宮益坂店」(渋谷2丁目20-11)が2025年12月19日にオープン予定だ。

渋谷駅東口から明治通りを渡った先に「LOWYA渋谷宮益坂店」がオープンする予定

再開発予定地という一時的な場所に体験型リテールを展開するのは異例だが、「一等地に短期で出店する」という決断の背景には、渋谷という街が持つ情報発信力と、ブランドの柔軟なマーケティング戦略が垣間見える。九州発のインテリアブランドとして成長を遂げてきた同社が、関東初の路面店として新たな試みを展開していくという。

「ライブ配信(オンライン)」と「リアルイベント(オフライン)」を横断した双方向のコミュニケーションを強化したショップとなる

総フォロワー220万人を誇るSNSの影響力を生かし、渋谷ならではの取り組みとして、2階の一部にライブ配信スタジオ「LOWYA SNS Studio」を新設。社員によるライブ配信のほか、SNSチームとファンが交流できる「オフ会」など、同スペースを活用したイベント開催も積極的に実施していくという。こうしたチャレンジングな取り組みができるのも、「好立地」と「短期間」だからこそといえる。営業期間は工事が本格化する2028年9月末までを予定している。

人件費や資材コストの上昇、工期の遅れなど、全国的に再開発の停滞が課題となる中で、宮益坂は“止まらない街”として歩みを続けている。解体を待つビルの壁には新しい看板が掲げられ、昼下がりの坂道には買い物客や通勤客の姿が絶えない。通常ならシャッター街となってしまうような時期にも、次々と新しい店が生まれ、街の灯は消えることがない。

それは、限られた時間と空間を最大限に活かそうとする“まちのたくましさ”であり、渋谷という街が持つ生命力そのものを映し出しているようにも感じる。

取材・執筆

編集部・フジイ タカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。