SHIBUYA × INTERVIEW
一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント代表理事
渋谷らしい文化が自然と湧き出る
都市のプラットフォームを整える
2026-03-30
一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント代表理事、東急株式会社 執行役員 都市開発本部 渋谷開発事業部長。大学で都市計画を学び、1990年に東急株式会社へ入社。30年以上にわたり都市開発に携わり、商業施設やオフィス、住宅、ホテルなど多様なプロジェクトを担当。コレド日本橋、キャピトル東急タワー、渋谷キャストなどの開発に関与し、国際部門ではベトナム・ホーチミンに約7年間駐在。2021年より、一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメントの代表理事を務める。
渋谷駅周辺では大規模な再開発が進み、新たな建物や空間が次々と生まれている。一方で、この街をどう動かし、どう育てていくのかという視点も重要性をいっそう増している。そうした都市運営を担うのが、一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメントだ。新しい挑戦を志す人たちが集まり、渋谷らしい文化が自然に生まれる街であり続けるために、どのような仕組みや環境を整えているのか。代表理事の坂井洋一郎さんに、これまでの取り組みと今後の展望を聞いた。
再開発の進む渋谷をどう運営していくかという、
都市マネジメントの視点が問われている。
渋谷駅前エリアマネジメントが設立された経緯をお話ください。
渋谷では、「100年に一度」といわれる大規模な再開発が進んでいますが、都市はつくられて終わりではありません。その後、街をどう運営していくかというマネジメントの視点が問われます。私が代表理事を務める一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメントは、渋谷の都市運営を担う組織として設立されました。私たちの組織には、「協議会」と「一般社団法人」という二つの機能があります。協議会には鉄道事業者を含む各ビルの管理組合に加え、渋谷区をはじめとする行政が加わり、新しい街のかたちやルールを議論する役割があります。一方、一般社団法人は広告収入などによって財源を確保し、それをもとに街の維持管理や発展、さらには人々が楽しめるイベントの実施などにつなげていきます。
いま、人々が街を訪れる目的や消費行動は大きく変化しています。「モノからコトへ」と言われてきましたが、最近はさらに進んで「コトからトキへ」とも表現されます。イベントそのものだけでなく、「その時、その場所で何かが起きている」という時間の共有が価値を生み出すようになっているのです。とりわけ渋谷駅前という公共空間は、圧倒的な数の人の流れが生まれる場所です。そこで何を表現し、何を発信するのかがそのまま街の価値になっていくのです。そのためのプラットフォームを整えることが、私たち渋谷駅前エリアマネジメントの重要な役割です。

他の都市にもエリアマネジメントを担う組織はありますが、渋谷はどのような特徴があると思われますか。
現在の渋谷の骨格は、関東大震災後の震災復興の過程で形づくられてきました。それ以来、多様な人々が集い、混ざり合いながら街は更新され続けてきたのです。近年は「ダイバーシティ」という言葉がよく使われますが、渋谷にとって多様性とは外から与えられた概念ではありません。どこかの企業がすべてをつくり込んだ街ではなく、地元の方々がいる中で、時代によって新しい挑戦者が現れ、そのつど文化が塗り重ねられてきた場所といえます。
演劇やレコード、ファッションといったカルチャーにも表れていますが、渋谷の文化は誰かが設計して生み出すのではなく、自然と湧き上がるように育まれてきました。その背景にあるのは、この街に漂う「自由の空気です。だからこそ、ウクライナ情勢への連帯やLGBTQ+支援など、世界に向けて何かを発信したい人々はこの場所に集まるのでしょう。渋谷には人を引き寄せる「磁力」があると同時に、集まった声を外へ広く届ける力も備わっているのだと思います。

「自由」の空気が漂う渋谷の街は、多くの人々を引き付ける魅力を持つ
公共空間を活用した広告収入を原資に
渋谷をもっと安心して楽しめる街へ。
渋谷駅前エリアマネジメントは、具体的にはどのような活動を展開しているのでしょうか。
私たちの活動を支えているのは、渋谷駅前の公的な空間を活用した広告収入の仕組みです。この収益を街の清掃活動や道路の維持管理、さらには人々が渋谷という街を楽しめるイベントへと還元しています。
たとえば、駅周辺の美化活動は私たちが担っていますが、単に掃除をするだけではなく、ゴミそのものを減らす取り組みにも踏み出しています。2026年3月からは東口地下広場のパウダールームに給水機を設置し、ペットボトル削減を目的としたエコボトルの配布も開始します。また、2週間ごとに廃棄される大量の広告幕を再利用し、エコバッグやポーチへと再生させる循環の仕組みづくりも進めています。

東口地下広場で実施された防犯訓練の様子(画像提供:一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント)
街の基盤となる安心・安全に関わる取り組みも進めています。警察やセキュリティ会社と連携し、駅前で実践的な防犯訓練を実施しています。化学テロを想定した訓練をあえて多くの人の目に付く場所で行うことで、「この街は安全を共に考えている」という姿勢を可視化する狙いがあります。また、一時期、東口地下広場のトイレにおいて、スリや置き引きで盗まれた財布が流されるなどのトラブルが発生しました。そのため、4か国語でのマナー啓発ラッピングを施した結果、こうしたトラブルが激減した実績もあります。

国道246号横断デッキで開催されたShibuya Street Liveの様子(画像提供:一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント)
渋谷ならではのカルチャーを生み出す取り組みも行っています。かつては取り締まりの対象となることもあったストリートミュージックも、渋谷駅前エリアマネジメントの活動の一環として、「Shibuya Street Live」としてルール化することで、現在は公式な活動となっています。東口地下広場や渋谷ストリームと渋谷スクランブルスクエアをつなぐ国道246号横断デッキなどで多様な人々が演じ、新たな文化が自然に生まれるきっかけをつくっています。その他にも、駅前のライトアップなどのさまざまな活動に関わっています。

毎冬、渋谷駅前ハチ公広場で開催される「SHIBUYA WINTER ILLUMINATION」も、渋谷駅前エリアマネジメントが運営を支えている
忙しく過ぎゆく日常に小さな潤いを。
それが「+FUN」の目指すもの。
「SHIBUYA+FUN PROJECT」を掲げられていますが、「FUN」や「遊び心」をコンセプトにする理由を教えてください。
今の時代、誰もが忙しく、日々の生活に余裕を持ちづらくなっています。だからこそ、ふとした瞬間に「なんか楽しい」と感じられるきっかけをつくりたい。それが、「FUN」や「遊び心」をコンセプトに掲げている理由です。

無機質な渋谷駅工事仮囲いに壁面アートを施し、鮮やかな彩りと躍動感を加えている。
例えば、再開発に伴う長期の工事現場は、普通なら不便で無機質な空間と受け止められがちです。そこで私たちは仮囲いをキャンバスに見立て、アート作品を展開しています。ささいな取り組みですが、日常のルーティーンの中に小さな潤いが生まれればいいと思っています。こうした取り組みに共感してくれた人が、次はオーディエンスから発信する側へと回ってくれたらうれしいですね。そのハードルは決して低くありませんが、渋谷という舞台であれば、より自由に挑戦できる可能性があると考えています。
渋谷駅前エリアマネジメントの存在は必ずしも広く知られているわけではありませんが、縁の下の力持ちであれば十分だと思っています。それよりも、「+FUN」という言葉が浸透し、「ここでは何か面白いことが起きている」と自然に想起される状態になることが理想ですね。
渋谷は誰にとっても「卒業」のない街。
立場や年齢が変わっても挑戦を続けられる。
今後、渋谷は、どのような街になると良いとお考えでしょうか。
一昨年訪れたオーストラリアのメルボルンは、渋谷の未来を考える上で大きなインスピレーションを与えてくれました。そこには、音楽やアートが日常に当たり前のように溶け込む、豊かな街の姿があったからです。
特に印象的だったのは、街中を彩るグラフィティです。かつてメルボルンでは、増え続ける落書きを行政が消そうとした時期がありました。しかし、市民が「弱いものを包摂することこそがオーストラリアの魂だ」と反対し、結果としてルール化して残す道を選んだそうです。今ではそのグラフィティが、暗かった路地裏を明るく魅力的な観光スポットへと変えています。ストリートライブも届出制となっており、一定の管理のもとで自由に演奏できる環境が整っています。環境に対する意識の高さにも感銘を受けました。街のいたるところに給水スポットがあり、誰もがマイボトルを持ち歩いている。その光景を目にして、「これは渋谷でも取り入れるべきだ」と強く感じました。

メルボルンの街なかにあふれるグラフィティ(画像提供:一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント)
経済を最優先し、GDPで豊かさを測ることも一つの考え方です。しかし、本当の幸福とは何かと考えたとき、それはお金の多寡だけではなく、自分がどんな体験をし、どんな時間を過ごせるかにあるのではないでしょうか。音楽やアートが身近にあり、環境への配慮が自然に生活に溶け込んでいる。そうした価値を大切にする社会でなければ、「かっこいい国」や「かっこいい街」にはなりきれないのではないかと感じます。
渋谷には、そうした価値を好む人たちが自然と集まってきます。お金のためだけではなく、「音楽をどうしてもやりたい」「何かを表現したい」という志を持った人たちが、挑戦の場を求めてやってくる。そのエネルギーを受け止める舞台を整え、エリアマネジメントの仕組みを通じて機会を生み出していく。それが私たちの目指す方向です。

再開発が一段落した後、渋谷駅前エリアマネジメントはどんな役割を担っていくべきだと考えていますか。
再開発が終わった後こそ、私たちは都市運営のより中心的な役割を担うべきだと考えています。ハードウェアが完成してから、都市をどう能動的に運営していくかが、私たちの本当の出番といえます。例えば、国も「ほこみち(歩行者利便増進道路)」という制度のもと、道路空間の利活用を後押ししていますが、実践はまだ十分に進んでいません。渋谷駅前エリアマネジメントはその最前線に立ち、警察や行政とともに実績を積み重ね、信頼関係を築きながら、これまで難しかった取り組みを可能にしていきたいと考えています。
この街では、働くこと、暮らすこと、そして遊ぶことが一体となった「渋谷型都市ライフ」ともいえる循環が生まれています。遊びのフィールドから新しい発想や挑戦が次々と生まれていく。渋谷には、誰にとっても「卒業」がない感じがあるんですよね。若い頃に遊んでいた人が、大人になっても戻ってきて、また何かを始める。私自身も、もう50年近くこの街と付き合い続けています。立場や年齢が変わっても、挑戦を続けられる街、それが渋谷なのかもしれません。だからこそ、再開発というハードの完成は、新たなスタート地点に過ぎないのだと思っています。

取材・執筆:二宮良太 / 撮影:松葉理



