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再開発による新たな旅路 —モヤイ像移設の舞台裏
国道246号線沿い

再開発による新たな旅路 —モヤイ像移設の舞台裏

渋谷駅の再開発工事に伴い、モヤイ像は2024年11月28日・29日の深夜2日間をかけて、新たな場所へ移設された。本記事では、ハチ公像と並ぶ渋谷駅の象徴として長年親しまれてきたモヤイ像の移設作業の舞台裏を取材。事前準備から夜間作業の詳細、そして移設後の姿までを追う。

東急東横店西館・南館の解体が進む中、モヤイ像があった西口エリアも仮囲いに覆われている。工事現場を見渡してもその姿は見えず、「モヤイ像はどこへ行ったのか?」と心配する声も少なくなかっただろう。実際には、工事フェンスの内側でその存在を確認できたものの、かつて円形花壇に囲まれていた姿は消え、花壇も撤去されて首元が露わになり、どこか物寂しい印象を受ける。

改めて見ると、モヤイ像は首が長く精悍な顔立ちの「イケメン像」であることがわかる。この正面の顔「アンキ(=若者)」は、新島の若いサーファーをイメージしたデザインだ。

一方、裏面の顔「インジー(=おじいさん)」は、江戸時代に流刑で新島に来た知識豊富な流人をモチーフとしており、モヤイ像は表裏で異なる顔を持つユニークな石像だ。

新しい移設場所はどこ?

モヤイ像は設置から44年間、渋谷駅西口のシンボルとしてその役割を果たしてきた。しかし再開発に伴い、一時的な仮移設場所として「渋谷フクラス」裏手のスペースが選ばれた。この場所は国道246号線沿い、長崎飯店の隣接地に位置する。再開発完了後、モヤイ像は再び西口広場のシンボルとして戻る予定だが、それまではこの場所で仮住まいをすることになる。

地図上では現在地から仮移設先までは近距離に見えるが、日中は交通量や人通りが多いため、安全面を考慮して移設作業は最終バスから始発バスまでの深夜の限られた時間内で行われた。以下、移設作業の詳細を時系列で紹介する。

移設作業1日目(11月28日)

16時:安全祈願の祈祷式
移設作業の安全を祈願するため、金王八幡宮の神職がモヤイ像前で祈祷式を行った。

工事関係者らが見守る中、「修祓(しゅばつ)」や「降神(こうじん)の儀」、「祝詞奏上(のりとそうじょう)」などの儀式が進行し、モヤイ像の両面に清めの祓いが行われた。

円形花壇内に植えられていた植栽や石碑などはしっかりと保管。植栽や石碑も、モヤイ像と一緒に移設される予定だ。

24時過ぎ:養生作業 
モヤイ像の高さは約3メートル。素材は新島特産のコーガ石で多孔質の軽石の一種だが、移動時の破損を防ぐため、安全を見越してコンクリート並みの4トン程度の重量で作業計画を立てた。実際には低比重のため2~3トンと推測される。耐火性・耐酸性・保温性に優れ、新島では屋根・壁などにも使われている石材であるが、やわらかく加工しやすい特徴から移動時の破損も心配される。

そこで、今回の移設では神社仏閣などのの運搬を専門とする会社が作業を請け負い、入念な養生が施された。

24時45分ごろ:クレーンによる吊り上げ作業 
養生後、再開発工事で使用している90tクレーンを用いてモヤイ像を引き上げる作業が行われた。頭上には、再開発工事に伴う迂回路として「歩行者デッキ(橋)」が設置されているため、デッキへの接触に注意しながら、クレーンの横移動も織り交ぜて慎重に運転操作された。

徐々にモヤイ像が上部へ引き上げられる姿は、何ともシュールな光景だ。

25時ごろ:トラックの荷台に積込&固定 
トラック荷台にゆっくりと降ろす。積込後、移動時の横転などを防ぐため、モヤイ像を四方八方からロープをかけて引っ張り固定し、最終的にグリーンのシートをかけられた。

25時40分ごろ:車両搬出 
トラックに積み込んだモヤイ像は一旦、晴海にある運搬会社で保管するため、車両搬出。1日目の作業が終了した。

あのトラックにまさかモヤイ像が載っているとは、誰も思わないだろう。

移設作業2日目(11月29日)

新たな設置場所は、渋谷フクラスの裏手、国道246号線沿いにある長崎飯店の隣接地である。

同所は若干の傾斜がある坂道だが、平坦に整地し、縦3.5メートル、横3.2メートルの四角いスペースを新設した。2日目の作業では、約5センチのモルタルを打設したスペースの中央に、クレーンを用いてモヤイ像を設置する作業が行われた。

●作業の進行状況

23時過ぎ:規制帯設置 
歩道に規制帯が設置され、移設作業が開始された。

24時過ぎ:鉄板敷設 
モヤイ像を吊り下げる20tクレーンを導入するため、歩道保護用の鉄板が敷設された。

24時49分:モヤイ到着 
モヤイ像を積載したトラックが晴海から到着した。

25時:クレーン車が到着&吊り下げ作業 
トラックに積載されたモヤイ像にクレーンのチェーンを取り付け、吊り上げ作業を開始。電線や電柱、木々を避けつつ慎重に吊り上げ、四角いスペースの中央にゆっくりと吊り下ろした。

この際、モヤイ像の正面が故郷・新島の方角である南西(セルリアンタワー方面)を向くよう、細かく調整を行いながら着地させた。

25時40分:設置完了
養生を取り外し、特にトラブルもなく設置作業が完了した。

今後、モヤイ像の周囲には土を入れて根固めを施し、渋谷Flowerプロジェクト「シブハナ」を中心に植栽が行われる予定である。また、モヤイ像を囲む形で腰掛けベンチにもなる柵を設置し、新たな待ち合わせスポットや憩いの場として活用される計画である。工事の完了は12月20日を予定している。

故郷に想いを馳せるモヤイ像の視線

モヤイ像の新しい設置場所は、渋谷フクラス裏手、国道246号線沿いにある長崎飯店の隣接地である。モヤイ像の正面、いわゆる「アンキ(=若者)」が向く方角は、国道246号を挟んだ南西、セルリアンタワー方面である。その延長線上には、約148キロメートル先にモヤイ像の故郷である新島が位置する。モヤイ像の視線は、遠く離れた故郷への思いを象徴している。

駅前の喧騒から離れた静かな場所へと移設されたモヤイ像は、再開発が完了するまでの間、仮住まいで穏やかな時間を過ごすことになるだろう。

取材・執筆

編集部・フジイ タカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。