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「うどん」の勢いが増す渋谷で「しぶそば」復活  あなたは「うどん派」か「そば派」か
本家しぶそば 渋谷道玄坂店

「うどん」の勢いが増す渋谷で「しぶそば」復活  あなたは「うどん派」か「そば派」か

ここ最近、渋谷を歩いていて目につくのは「うどん店」の増加である。かつて渋谷で「うどん」といえば「丸亀製麺」か「はなまるうどん」の二択だったが、状況は変わりつつある。並木橋、センター街、道玄坂に3店舗を構える「山下元気うどん」や、昨年末に神泉でオープンしたNY発の人気店「hanon」を皮切りに、今年に入ってからも出店ラッシュが続いている。

左)渋谷に3店舗を構える「山下元気うどん」。創作系うどんも多く、女性人気が高い。 右)道玄坂上に今春オープンした「甚三」。安くてボリュームのある肉うどん系が人気

左)「香川一福ART]外観。奇数の日は「細麺」、偶数の日は「太麵」とグランドメニューも変わるため、日常使いでも食べ飽きない 右)「立吉餃子 渋谷店」の業態変更として「餅麺」オープン。特に明治通り沿い(渋谷3丁目)にうどん店が増えている

4月にはアパホテル渋谷道玄坂上南館1階に「かけ390円」から味わえる讃岐うどんの人気店「甚三」、5月には明治通り沿いにビブグルマン受賞の「香川一福」が手がける新業態「香川一福ART」、7月には“もっちり麺”が売りの「餅麺」と、次々と新店舗が誕生。インバウンド需要の高まりも追い風となり、ラーメンに劣らぬ勢いで「うどん店」が増えている。

従来の讃岐系セルフうどんに加え、創作系のうどんも台頭し、若者や訪日客にとって“気軽に楽しめる麺料理”として人気を集めている。インスタ映えする盛り付けに加え、ラーメン以外の麺文化への関心の広がりも背景にあるだろう。一方で、若者や女性への訴求が弱いのか「そば店」は減少傾向にあり、再開発が進む渋谷では昭和レトロな佇まいの老舗や立ち食いそばの風景が徐々に姿を消しつつあるように感じる。

かつて渋谷駅周辺には「立ちそば」「駅そば」の文化が息づいていた。SHIBUYA109向かいの文化村通り沿いにあった「富士そば」1号店(2016年閉店)をはじめ、JR線ガード下の「川恵(KAWAKEI)」(2015年閉店)、JR線ホーム構内の「あじさい茶屋1号店(外回り)・2号店(内回り)」(2016年閉店)、ハチ公口地下の「いろり庵きらく(旧ぶや)」(2013年閉店?)などがその代表例である。通勤・通学の合間に立ち寄れるその一杯は、速さと安さ、そして今思えば、日常の安心感を提供していたように感じる。しかし最近はカフェや多国籍料理店が増え、そば屋の存在感は相対的に薄れている。その隙間を埋めるように台頭してきたのが「うどん店」であり、渋谷の麺事情は大きく変貌を遂げている。

9月に復活オープンしたばかりの「本家しぶそば」。黒一色のファサードに白いのれんが映え、清潔感・格式の高さ・凛とした雰囲気を印象づける

そうした中で、長年親しまれてきた「本家しぶそば」が復活した。かつては東急線中央改札を出て大階段を下った先にあり、多くの通勤客や学生に愛されていたが、渋谷駅の再開発に伴い2021年に閉店。その際には惜しむ声が数多く寄せられた。そして今月9月14日、「しぶそば」は5年ぶりに道玄坂に新店舗を構えたのである。

新店舗は、残念ながら駅構内ではなく道玄坂下の路面店だが、駅近という好立地。1階・2階の2フロアで構成され、1階にはコの字型カウンター12席とレジ・厨房、2階には26席を設ける。「かーきーあーげー」とマイクで読み上げる独特のオーダー方法は、かつての駅そば時代の名残をあえて残したものだ。一方で英語メニューの導入や健康志向に応えた品揃えの充実など、伝統を守りながらも現代的な工夫を凝らし、女性や外国人観光客にも入りやすい雰囲気を演出している。オープン直後からSNSでは「空白の5年を埋める変わらない旨さ」と話題を集めている。

定番の「かき揚げうどん」に加え、「サバコロッケ」もおすすめ。サバの香りと味わいはそば汁との相性が良い。

2階店内の様子。窓側の壁面には、かつて渋谷駅店頭に掲げられていた「本家しぶそば」の木製看板が飾られている。

実はこの看板、前身である「二葉」の看板の裏を再利用したものだという。

うどん人気が高まる渋谷において、「そば」の再評価にも期待したい。出汁の香りは店先を通るだけで食欲をそそり、一気にそば気分を高める。「しぶそば」の復活が単なるオジサンたちのノスタルジーにとどまらず、変わりゆく街の中で“懐かしさと新しさが同居する食文化”として若者や外国人にも受け入れられ続けることを願う。

食の選択肢があふれる渋谷。次に麺を選ぶとき、あなたは「うどん派」か、それとも「そば派」か。1000円を超えるランチが増えるなか、コスパの高いランチの選択肢が一つ増えたことを歓迎したい。

本家しぶそば 渋谷道玄坂店
〇住所:渋谷区道玄坂2丁目9-10 渋谷駅より徒歩約3分
〇営業:平日 8:00~23:00/土日祝 9:00~22:00(注文は閉店30分前)

取材・執筆

編集部・フジイ タカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。