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【レポート】渋谷ヒカリエで「遊ぶ」アート展 巨大すごろくや鍋を鳴らす卓球
渋谷ヒカリエ8階Creative Space 8/

【レポート】渋谷ヒカリエで「遊ぶ」アート展 巨大すごろくや鍋を鳴らす卓球

渋谷ヒカリエ8階「Creative Space 8/」で8月22日、体験型イベント「SHIBUYA WANDERING CRAFT 2026」が始まった。

同イベントは2014年から続く恒例企画。8階の各施設が共通テーマの下、展示やトーク、ワークショップなどを展開する。今年は「滞在と居場所」をテーマに、「豊かな滞在から生まれる、自分らしくいられる居場所とは何か」を問いかける。

メイン企画は、イベントスペース「8/COURT」と隣接するギャラリー「CUBE」で開く「原倫太郎+原游 体験型アート『夏の子は、ハチのように。都市の子は、球のように!』」。アーティストユニット・原倫太郎さん+原游さんによる巨大すごろくや卓球台など、実際に触れて遊べる作品を展開する。

原さんらは17~8年前からユニットで活動。越後妻有「大地の芸術祭」や瀬戸内国際芸術祭など国内外で体験型作品を発表してきた。倫太郎さんはモーターや光を使ったキネティックアート、游さんは絵画をそれぞれ制作していたが、大規模な空間での作品制作をきっかけに互いの技術を組み合わせるようになった。現在は「遊び」を軸に、その土地の文化や歴史を取り込んだ作品を多く手がける。

渋谷の街を遊ぶ「ハチの字双六」

今回の新作が「渋谷ハチの字双六(すごろく)」。床にマスを並べ、参加者自身がコマのように歩いて進む巨大すごろくだ。

「すごろく」で遊ぶ子どもたち

「8(ハチ)」をモチーフにした理由について、倫太郎さんは「ここが8階で『Creative Space 8/』であることや、ハチ公も近いこと。8を横にすると無限大になるし、昆虫の蜂もある。渋谷ですごろくを考えた時に、ぱっと思いついた」と話す。

渋谷にちなんだ内容や指令が書かれたすごろくのコマ

マスにはスクランブル交差点やスペイン坂、ハチ公など、渋谷にまつわる約20の指令を盛り込んだ。街について学べる内容のほか、フラフープやけん玉など、体を動かす仕掛けもある。

コマとして使うのは、アリやハクビシン、犬、猫など東京に生息する生き物を描いた小さな絵画作品。参加者が生物の引き紐(リード)を持ち、サイコロの目に従って「散歩」させながら進む。

倫太郎さんは「普通の場所で突然『フラフープをやってください』と言われたら恥ずかしい。でも、すごろくというルールの中なら自然にできる」と話す。

親子のコミュニケーションが自然に生まれる

作品で目指すのは勝敗よりも、人と人の間に生まれる時間だという。「親子でも友達同士でも、そこでコミュニケーションを取ってもらえれば。作品そのものだけでなく、そこで生まれる場の雰囲気や風景が芸術になればいい」。

鍋を鳴らす卓球、3人でつなぐ卓球

会場には、原さんらを代表する卓球作品も並ぶ。シリーズは2019年の瀬戸内国際芸術祭で、香川県・女木島(めきじま)に「卓球場を作ってほしい」と依頼されたことから始まり、これまでに10数台を制作してきたという。

ポップアートのような大小カラフルな鍋を埋め込んだ「ピンポンパン」

「ピンポンパン」は、卓球台に大小さまざまな鍋を取り付けた作品。ボールが鍋に当たると、素材や大きさによって異なる音が響く。

「いろんな鍋トライしてホーローが一番いいですね。 アルミとかはね、あまりいい音がしなくて」と説明する倫太郎さん

「鍋屋さんに卓球のボールを持っていって、一つずつ音を確かめました。不審者に間違えられましたけど(笑)」(倫太郎さん)といい、この作品には20個以上の鍋を取り付けた。

ブラックライトを当てると光る卓球台

隣の卓球台は、2020年の「六本木アートナイト」に向けて制作した作品。新型コロナ感染拡大に伴う開催中止で当時は披露できなかったが、蛍光塗料を使い、ブラックライトを当てると幾何学模様が浮かび上がる。中央のポリゴン型ネットは、ボールを上にも中にも通せる仕組みになっている。

左=ピンポンとエアホッケーを交互に楽しめる卓球台。オランダの芸術運動「デ・ステイル」の原則に基づき、赤、黒、青、黄のみでデザインされている。右=板の長さによって異なる音を奏でる「マリンバピンポン」。台の下にコンタクトマイクを取り付け、球が木琴に当たるたびに音が響く

さらにギャラリーCUBE内には、木琴のような音が鳴る「マリンバピンポン」や、エアホッケーと卓球を交互に楽しめる作品なども並ぶ。

「武蔵野3人卓球」は、3人で一つのボールをつなぐ卓球台。国木田独歩の『武蔵野』を題材に、タヌキや猫など身近な動物を描いた。游さんは「3人なので、勝ち負けというより協力してボールをつなげる遊び。台も低くして、子どもでも参加しやすくしている」と話す。

大人も子どもも一緒に楽しめる「武蔵野3人卓球」。武蔵野の森に暮らす動物たちが、湖面に映っているようにも、湖の底から見上げているようにも見えるトリックを取り入れた作品

遊びながら巡る、参加型のアート空間

今回の展示では、「8/COURT」と「CUBE」を一続きの空間として構成する工夫も凝らす 。8/COURTの緑色の床を見た倫太郎さんは「少し森のような空間になると思った」といい、木を模したオブジェや作品を配置。来場者が遊びながら回遊し、自然に隣のギャラリーへ入っていく動線をつくった。

2つの会場を双六(すごろく)でつなぎ、来場者の自然な回遊を促す会場構成

紙を組み合わせて昆虫を作り、粘着材「ひっつき虫」で木に貼り付けるセルフワークショップ「ひっつき虫ツリーを作ろう」も展開。参加者が増えるほど、木に色とりどりの虫が加わっていく。

セルフワークショップ「ひっつき虫ツリー」。参加者が作った虫が増えるほど、木が色鮮やかに

「(ワークショップは)子ども向けに考えましたが、大人もかなり楽しんでいる」と游さん。

さらに奥のスペースには、約500個の積み木を使う「ロゴスの庭」を展示する。

「言葉の積み木」を自由に組み合わせて楽しむ体験型作品 「ロゴスの庭」

積み木には、映画や本、ラジオから拾った言葉や、街で目にする「駐車場」「ランチタイム」といった日常語などが記されている。参加者は自由に組み合わせ、文章や言葉の塔を作る。

旧約聖書の「バベルの塔」をモチーフにした個展をきっかけに生まれた作品で、倫太郎さんは「言葉を組み合わせると、シュールだったり、思いがけない意味が生まれたりする。見るだけでなく、自分で組み合わせて遊んでもらう作品」と説明する。

「都会中の都会」で地方での経験を見せる

原さんらにとって、渋谷はなじみのある街でもある。游さんは両親の会社が渋谷にあったことから幼い頃から訪れ、倫太郎さんも横浜から東横線で渋谷に通った。「東急文化会館で映画を見て、ミニシアターを回り、タワーレコードやパルコブックセンターへ行く。それが定番でした」と振り返る。

近年は越後妻有や瀬戸内など地方での活動が多かったことから、今回の展示について「都会中の都会で、地方で育んできた経験を見せられるのはチャレンジング」と話す。

商業施設で作品を展開することにも可能性を感じているという。「通常施設内にある企業が作るプレイグラウンドは『遊ぶこと』を目的にしているため出発点が違う。僕たちはアートという文脈から始まり、そこに遊びを取り入れている。機能的で完成度の高い遊具とは違い、少し緩かったり、余白があったりする。そこにアートならではの多様性や柔軟さがある」と倫太郎さん。

左から原倫太郎さん、原游さん

各作品には、文化や歴史、文学などにつながる要素が随所に盛り込まれている。アーティストの手仕事による、少し不均一で余白のある「遊び場」が、一般的なプレイグラウンドとの違いだという。「今、私たちは台湾でも商業施設の中で、水を使った全長15メートルほどの作品を展示している。都市の商業施設の中に、こうした体験型のアートが入っていく機会は、これからさらに増えていくのではないか」と期待を寄せる。

最後に倫太郎さんは「未就学児から大人まで、僕たちの作品はかなり裾野が広い。親子で遊んでもいいし、知らない人同士が3人卓球で出会うこともある。世代を超えて、いろいろな人に体験してもらいたい」と話す。さらに游さんも「今は暑すぎて外でも遊べないので、こういう空間を使った場所が街の中にもっとあってもいいと思う」と来場を呼びかける。

作品を「見る」だけでなく、触れ、動かし、誰かと遊ぶ。そこで人と人がつながり、生まれる一時的な風景そのものを、原さんらはアートとして捉えている。

会期は8月30日まで。体験無料。

開催場所

取材・執筆

編集部・フジイ タカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。