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1/80で再現された「渋谷」ジオラマ誕生 都市モデラー・入交優さんが語る渋谷の魅力
東京・有明にある屋内型ミニチュアミュージアム「スモールワールズTOKYO」。2020年の開業以来、総面積約7,000平方メートルの館内で、1/80スケールの精巧なミニチュアの世界を展開している。館内には、エヴァンゲリオンの撮影模型や宇宙センター、世界の街並み、関西国際空港、有明アリーナなど、異なる9つのエリアが広がり、精密な造形とダイナミックな演出で国内外の来館者を魅了している。

屋内型ミニチュアミュージアム「スモールワールズTOKYO」の入口では、エヴァンゲリオン初号機が出迎える
同館に6月11日、新エリア「渋谷」がオープンした。多くの人びとが集まる渋谷駅前一帯を1/80スケールで再現した大型都市ジオラマで、スクランブル交差点や渋谷駅周辺の複雑な地上・地下構造を立体的に表現。昼と夜が切り替わる照明演出や約5,000体のフィギュア、約3,000個のLEDによる光の演出を通して、国際都市・渋谷のダイナミズムを体感できる。
今回はスモールワールズTOKYOを訪れ、新エリア「渋谷」の制作を手がけた入交優(いりまじり・ゆう)さんにインタビュー。なぜ渋谷を模型化したのか、制作を通して見えてきた渋谷らしさとは何か――。都市を俯瞰する視点から、世界中の人びとを引き付ける「渋谷の街」の魅力に迫ってみたい。
「街を俯瞰する面白さ」が原点
制作を手がけたのは、ジオラマ作家の入交優さん。クリエーターネーム「都市モデラーMAJIRI」としても活動し、SNSやYouTubeで都市ジオラマの制作風景を発信してきた。新しく公開した「渋谷」エリアでも、構想から設計、制作、照明演出まで幅広く携わった。

「渋谷」エリアを手掛けた都市モデラー・ジオラマ作家の入交優さん
入交さんがジオラマに興味を持ったのは小学生の頃。Nゲージの鉄道模型を走らせるため、小さな田園風景を作ったことが原点だった。
「最初はNゲージ(鉄道)を走らせるための風景でした。でも、次第に風景そのものを作ることが面白くなっていきました。今では鉄道が主役ではなく、街そのものが作品。その中を鉄道が走るような、大きな都市ジオラマを作りたいという思いにつながっています」
三重県出身の入交さんは、和歌山大学工学部で土木・環境系を学びながら、独学で模型制作を続けた。大学時代にはYouTubeで作品を発信し、大きな反響を集めるようになる。 卒業後はスモールワールズTOKYOに入社。約8カ月の在籍を経て独立したが、現在も作家として同館と良好な関係を続けている。
「在籍中は、ボタンを押すと動く仕掛けや、プログラム制御、機構設計などを担当していました。建築というより、機械設計に近い仕事も多かったですね。ものづくり全般が好きなので、デザインだけでなく、プログラムや制御まで一貫して関われることが自分の強みだと思っています」
「ジオラマとして一番面白い街」は渋谷だった
入交さんにとって、「渋谷」は学生時代にも制作した思い入れのある街だ。最初に渋谷を作ったきっかけは、大学時代の東京出身の友人から「次は渋谷を作ってほしい」と言われたことだったという。

入交さんが学生時代に制作した渋谷のジオラマも、スモールワールズTOKYOに展示されている
「当時は『渋谷なら話題になる』と考えていたわけではありません。純粋に面白そうだから作ってみようと思いました。公開後に大きな反響があり、それが現在の活動にもつながっています」
当時は学生で、東京へ取材に行く余裕はなかったため、制作は主にGoogleストリートビューを見ながら進め、一部の写真を友人に撮影してもらったという。
今回、スモールワールズTOKYOで大型展示として「渋谷」を新たに制作するにあたり、企画は入交さん自身から提案した。
「これまで新宿など、さまざまな街を制作してきましたが、ジオラマとして一番面白い街はやはり渋谷だと感じていました。地上と地下が複雑に重なり合う多層構造や街の密度は、ジオラマとの相性が非常に良いんです。さらにインバウンドの外国人旅行者からの人気も高く、まず作るべき街は渋谷だと考えました」
普段は渋谷で遊ぶことはあまりなく、現在は足立区に住み、下町寄りの生活を送っているという入交さん。それでも渋谷には「特別な憧れがある」という。
「渋谷は道路が直角ではなく、複雑に入り組んでいます。人が歩いた歴史がそのまま街の形になっています。整然と区画整理された街よりも、少し雑多で複雑な街並みの方が魅力を感じますし、作ってみたいと思えます」
「見た瞬間に渋谷」と分かる街を目指して
渋谷ジオラマで再現した範囲は、センター街、SHIBUYA109、ハチ公前広場、渋谷駅全体を覆うエリア。背景的な位置づけとして、渋谷ストリーム方面も制作している。基本はHOゲージと同じ1/80スケールだが、最も大きな建物である渋谷スクランブルスクエア東棟だけは、高さが229メートルと非常に高いため、全体のバランスを考慮して1/110スケールに調整した。

「渋谷」エリアを熱心に見つめる来場者
入交さんが特にこだわったのは、実際の街をそのまま縮小するのではなく、「見た瞬間に渋谷だと感じられる」ことだった。
「複雑な街を、どうすれば一番魅力的に見せられるか。位置関係やスケールを少しデフォルメしながら、実際以上に“渋谷らしく”見せる。その調整が一番面白い部分でもあります」


左=再開発前のJR渋谷駅外観 右=かつてあった駅壁面の「ハチ公ファミリーの レリーフ」


左=「アオガエル」の愛称で親しまれた東急初代5000系電車(現在は秋田・大館市に移設) 右=2024年12月に閉店した「三千里薬局」
そのため、ジオラマの中には現在の渋谷だけでなく、記憶の中にある渋谷も織り交ぜられている。今はもう見ることのできない再開発が始まる前の「JR渋谷駅」や「駅壁面のハチ公ファミリー壁画」「東急初代5000系電車(愛称、アオガエル)」「三千里薬局」など、見た人が「渋谷だ」と感じる要素を随所に配置。一方で、「JR渋谷駅新南口改札」など、渋谷サクラステージの再開発に伴い、新たに誕生した施設も再現した。

JR線をまたぐ北側自由通路上に、2024年7月に移設された「JR渋谷駅新南改札」
「皆さんの思い出の中にある『一番渋谷らしい部分』をピックアップし、現在の渋谷の姿と、記憶の中にある渋谷の風景を混ぜながら制作しました」
地下5階から地上47階までを一望
一番の見どころは、地下と地上を一体で見られる立体構造だ。渋谷駅は、地下鉄やJR、私鉄が複数重なり、地下通路や商業施設が立体的に交差する。その複雑さは、「ダンジョン(地下迷宮)」と呼ばれることも少なくない。このジオラマでは、地下5階から地上47階までの複雑な多層構造を一体的に見せることに挑戦している。

地上から地下まで、リアルでは見えない「渋谷の街」をジオラマで表現
「ジオラマで地下まで再現しているものは、おそらくほとんどないと思います。渋谷は横ではなく、縦に発展した街。その複雑な構造を、地下まで含めて見ていただけることが、このジオラマの大きな強み。実際の街では見ることのできない視点だからこそ、都市がどのように成り立っているのかが分かります。まるで巨人になって街を見下ろしているような感覚で楽しんでほしいです」

渋谷の地下コンコースや改札、地下鉄ホームを緻密に再現
ジオラマでは、地上の人の流れや地下を走る鉄道、高層ビル群、街角に残る小さな風景までを一つの視界に収めることができる。細部に目を向ければ街の日常が見え、全体を俯瞰すれば、それらが有機的につながる都市の姿が浮かび上がる。普段歩いているだけでは分からない都市の成り立ちが見えてくるのも、ジオラマを見る楽しさだという。 。
デジタルと職人技で生み出した街づくり
ジオラマは昨年末から準備を始め、今年1月から本格的な制作に着手して約6カ月をかけて完成した。制作に先立ち、入交さんは360度カメラを手に3日間かけて渋谷の街を歩き回り、建物や街並みはもちろん、路地や地下出入口まで徹底的に撮影した。
「映像をもとに手作業で3Dデータを起こし、そこからジオラマとして見やすくするため、場所によっては縮尺を調整しながらデフォルメして設計。各建物の展開図を作成し、3D画面上でパーツごとに分解して組み立てました。渋谷では35棟ほど制作しましたが、大型の建物が多く、それだけでもかなりの作業量でした」
大きな仕掛けの一つである「昼夜の照明演出」も、デジタル技術と職人技を融合させた表現の一つだ。ジオラマでは約10分ごとに昼と夜が切り替わり、同じ街並みが時間帯によって全く異なる表情を見せる。

10分毎に照明が変化し、渋谷の夜景も楽しめる
なかでも「1カ月間の制作期間を要した」という渋谷スクランブルスクエア東棟には、約3,000個のLEDを組み込んでいる。夜になると建物内部にも明かりが灯り、オフィスの一室一室まで再現された高層ビルが浮かび上がり、リアルな都市の夜景を演出している。

約3000個のLEDを組み込んだ「渋谷スクランブルスクエア東棟」
「普通の建築模型では、一つライトを入れて全体をぼんやり光らせることが多いのですが、このジオラマでは約3,000個のLEDを使い、一つひとつ色や明るさを変えられるようにしました。一度、LEDの一部が故障してしまい、200~300個ほど点灯しなくなったことがありました。それを全部交換する作業は本当に大変でした(笑)」

街灯や信号機、クルマのテールランプなどのライトが混ざり合う「夜の渋谷駅前」
こだわれば、それだけ苦労が増える一方で、屋内展示だからこそ、こうしたLEDによる繊細な照明演出や、大型ビジョンを使った映像演出も可能になったという。入交さんは、「屋内型ジオラマの表現の可能性を広げたい」と話し、新しい都市表現への可能性を模索し続ける 。
5000体が生み出す、渋谷の日常とストーリー
鉄道や高層ビルだけでなく、渋谷のジオラマでひときわ目を引くのが、交差点や駅周辺に配置された約5,000体の人物フィギュアだ。
当初は約1万体を配置する構想だったそうだが、実際に並べてみると人が多すぎて街並みや建物の見どころが埋もれてしまうことが判明。試行錯誤の末、一人ひとりの表情や動きがしっかり伝わる「約5,000体」という数に落ち着いた。

姿や動作、服装の異なるフィギュアを街の様々な場所に配置することで、ジオラマの街に人びとが織りなすドラマ性や生命力が加わる
「人が多すぎるとかえって街の魅力が見えづらくなってしまいます。今回はフィギュアにもこだわっているので、一人ひとりのストーリーが感じられるよう、このくらいの数がちょうどいいと考えました」
フィギュアは既製品ではなく、人を3Dスキャンしたデータをもとにフルカラー3Dプリンターで制作したオリジナル。服装やポーズもできるだけ重複しないよう工夫されている。


左=サッカーの勝利に沸くサポーターたち 右=交通規制を行うDJポリス


左=インバウンドに人気の「マリオカート」 右=テレビ局の取材を受ける女子高生やハロウィーン仮装、記念撮影を楽しむ観光客ら
交差点や街角、細い路地に目を凝らすと、渋谷らしい多彩な人物が街中に息づいている。現在開催中のワールドカップで日本代表を応援するサポーターをはじめ、DJポリス、Uber Eatsの配達員、LUUPに乗る人、マリオカートを楽しむ観光客、ギャル、テレビ取材を受ける人、路上ライブを行うアイドルなど、現代の渋谷を象徴する人びとが随所に配置されている。

左=電車内にもフィギュアを配置。駅では発車メロディ、車内ではアナウンスの声も 右=駅の改札口。交通系ICカードをかざした時に鳴る「ピッ」「ピピッ」という電子音、さらに時々「ピピピピッ」という残高不足などで鳴るエラー音も。電車の走行音を始め、駅で聞こえるリアルな音にもこだわっている

M字型の屋根が特徴の銀座線・渋谷駅。将来的には、屋根の上を歩くことができる空中通路「スカイウェイ」の供用も予定されている
さらに、道路だけでなく電車の車内にも数百体規模のフィギュアが配置されており、駅や路線ごとの雰囲気まで意識しながら、街全体の空気感を表現している。
「今の渋谷らしい時代性を反映したいと思いました。スクランブル交差点で日本代表を応援しているサポーターのフィギュアも、チュニジア戦の快勝後に追加したものなんです(笑)」
また、渋谷スクランブル交差点の中央部分は、簡単に取り外せる交換式を採用している。そのため、夏の盆踊りや秋のハロウィーンなど、季節のイベントに合わせて道路やフィギュアを入れ替え、街の風景をアップデートしていく予定だという。こうした柔軟な演出こそ、「常設展示ならではの強み」だ。


左=街なかの自動販売機 右=喫煙所内のたばこの吸い殻が溜まった灰皿

渋谷JR高架下線トンネルの入口横に並ぶ自転車。右奥には、自転車をドミノ状に倒してしまった人も
フィギュア以外の細部への徹底したこだわりも見逃せない。路地裏の自動販売機や消火栓のポール、ビル屋上の室外機、喫煙所の吸い殻に至るまで丁寧に再現。建物や鉄道を眺めるだけでなく、街のあちこちに散りばめられたこだわりや小さな遊びを探して歩く、そんなジオラマ散歩も楽しめそうだ。
再開発と共に変化するアップデート
再開発がまだまだ進む渋谷ジオラマは、今後どのように発展してくのだろうか。
「制作費の問題があるので何とも言えないですが、インバウンドの方も、(再開発進捗に伴い)新しい渋谷の風景が定番になっていくと思うので、それを追いかけるようにして、 ジオラマもアップデートしていきたいですね」

「桜丘とか、東口とか、今回再現できていないエリアの拡大や、皆さんがよく知る昔の渋谷の街を再現するのも面白いなと思っています」という入交さん
ジオラマを紹介する動画が総再生数700万回(2026年6月時点)を超える反響を得ていることもあり、今後、渋谷ジオラマのさらなる拡大やアップデートが期待できそうだ。
今回取材を通して見えてきたのは、このジオラマが単なる精巧な模型ではなく、都市の構造や人の流れ、時代の記憶までも立体的に表現した作品であるということだ。リアルには可視化できない地上と地下を一体として眺められたり、少し昔の渋谷の風景が混在していたり、最新の施設や時事的な話題がいち早く取り入れたり……、リアルとデフォルメを含めて渋谷らしい「渋谷」が表現されている。細部に目を凝らせば凝らすほど、新しい発見がある。訪れるたびに違う物語を見つけられることも、このジオラマならではの醍醐味といえるのではないだろうか。
実際の渋谷を歩いた後、このジオラマを眺めると、普段は気付かない街の構造や表情が見えてくる。リアルとミニチュア、2つの渋谷を見比べながら、新たな発見を楽しんでほしい。
- スモールワールズ TOKYO
- 営業:9:00-19:00(最終入場 18:00)
- 住所:東京都江東区有明1丁目3ー33 有明物流センター
- 料金:大人3,200円/中人(12〜17歳)2,100円
小人(4〜11歳)1,700円
※3歳以下は無料 - 公式:詳細はこちら
取材・執筆:フジイタカシ / 撮影:松葉理







