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休館中のBunkamuraがアートの舞台に! 巨大壁画など、渋谷のストリートを表現
Bunkamura

休館中のBunkamuraがアートの舞台に! 巨大壁画など、渋谷のストリートを表現

渋谷ファッションウィーク2025春との共催企画として、アートプログラム「Bunkamuraの未来を照らす新しいアート体験2025」が3月13日、休館中の渋谷の文化複合施設「Bunkamura」で幕を開けた。

このアートプログラムは、長期休館中のBunkamuraを期間限定で活用する特別企画として昨年に続き2回目の開催となる。隣接する東急百貨店本店は、55年間の営業を経て2023年1月31日に閉店。その跡地には「Shibuya Upper West Project」として、地上36階の複合施設が2029年度に開業予定だ。Bunkamuraも同時期に大規模改修工事を行い、2029年度中の営業再開を目指している。

今回のテーマは「街(ストリート)」。参加アーティスト3組が、それぞれの視点から都市の変容をアートというアプローチから紐解く試みを展開する。

グラフィックアーティスト・河野未彩さんによるインスタレーション「【発光×干渉×鑑賞】者」。アートプログラムの来場者を出迎える

1階正面エントランスでは、広いエントランススペースを活用し、グラフィックアーティスト・河野未彩さんによるインスタレーション「【発光×干渉×鑑賞】者」が展示されている。

左=「鑑賞者の通路(中央)」を来場者が通り抜けていく  右=「干渉の通路(右側)」のスクリーンに来場者の影が動く

RGBライトを活用し、入口の通路を「発光の通路(左側)」「鑑賞者の通路(中央・白い床部分)」「干渉の通路(右側)」の3つに分ける構成。中央の通路を来場者が通ることで鮮やかな光が生まれ、その影が右側のスクリーンに投影される仕組みとなっている。

グラフィックアーティスト・河野未彩さん

「量子力学から着想を得た」という作品について、河野さんは次のように語った。

「量子力学の二重スリット実験では『観測することで結果が変わる』という現象が知られていますが、アート作品もまた、鑑賞者の視点によって異なる表情を見せるものだと考えています。私たちは日常の中で光と影が作り出す風景を目にしながらも、それを意識することは少ないかもしれません。この作品を通じて、光と影がどのように空間を変えるのかを再認識していただければと思います。最も伝えたいのは『影は必ずしも暗いものではない』ということ。光の当たり方によって影は彩られ、美しい現象が生まれる。その瞬間を可視化した作品となっています」

SIDE COREによる大型インスタレーション「rode work shibuya」

地下1階の吹き抜けスペースでは、ストリートアートを手がけるアーティストユニット「SIDE CORE」による大型インスタレーション「rode work shibuya」が展示されている。工事現場で使用される資材や照明を組み上げ、シャンデリアのような形に構成。スケートボーダーが渋谷の街の隙間を滑る映像や、街から収集したノイズ(音)を組み合わせた立体作品となっている。

SIDE COREメンバー・松下徹さん

インスタレーション作品について、SIDE COREのメンバー・松下徹さんは次のように語った。

「今回のインスタレーションは、街の中で生まれる断片的な現象を拾い上げ、それを視覚化する試みです。シャンデリアのような作品には、道路工事現場で使われる照明を活用しています。これらは東日本大震災後の復興にも使われたもので、仙台のメーカーが製造したもの。特徴的なのは、福島からの電波時計の信号を受信し、光(赤・青のLED)を一定時間ごとに点滅させる仕組みになっている点です。この光の同期性を通じて、『異なる場所の光が、目に見えない電波でつながる』というテーマを表現しています。また、スケートボードの音や水の流れる音など、普段意識せずに耳にしている街の音を収集し、サウンドインスタレーションとして取り入れました。日常の中で何気なく聞いている音を改めて体感することで、新しい視点で都市と向き合えるような作品になっています」

SIDE COREの作品「やわらかい建築の為の習作」

さらに、休業中のカフェ「ドゥ マゴ パリ」店内にも、粘土を使った作品などが展示されている。再開発が進む渋谷など、都市には短い時間の中で鉄筋コンクリートの建築が建て替わり、建築は流動的な構造体として見ることができる。会場内で制作された粘土の建築作品は、建築途中のようにも、また解体途中にも見える。制作に使用した粘土には、渋谷の語源とされる赤土(鉄分を含む『渋い(赤さび)谷』)が混ぜ込まれているという。

SIDE COREの作品「day by day」

壊れた自転車や、絡みつく蔦、落書きを塗りつぶした壁など、意識しないと見ることのできない都市の中で取り残されたものを、断片的につなぎ合わせた立体作品。 休業中のカフェ「ドゥ マゴ パリ」店内にそのまま残る椅子やテーブルなどに展示されている。また以前、猿楽町の赤土で作った小さなネズミの作品も、数匹隠れているそうだ。作品を探しながら店内を巡る楽しさも湧く。

大山エンリコイサム《FFIGURATI #652》2025年 Artwork ©︎Enrico Isamu Oyama / EIOS Photo ©︎Shu Nakagawa

屋外展示では、美術家・大山エンリコイサムさんによる大型壁画「FFIGURATI #652」が、東急百貨店本店の解体工事でむき出しになったBunkamuraの外壁に描かれている。約9メートル四方の作品2点が並び、白と黒を基調とした「クイック・ターン・ストラクチャー」というストリートアートの手法を用いて制作された。

美術家・大山エンリコイサムさん

制作過程について、大山さんは次のように語った。

「これまでで最大のサイズの作品です。高さ約30メートルの場所に描いていますが、制作はビルの清掃で使われるゴンドラに乗って、チームで進めました。期間は2週間と限られていたので、天候を気にしながら計画的に進める必要がありました。もともと、この壁面は隣にあったビル(東急本店)に隠れていて、普通なら見えない部分でした。しかし、再開発で突然むき出しになって、整備もされずにそのまま残されている。そういう変化が、渋谷という街の中でちょっと異質な空間を生み出していて、その非日常的な雰囲気を作品に落とし込めたのではないかと思っています」

ストリートアートに関する書籍や映像資料を展示する「資料でひもとくストリート」。書籍12点と、渋谷を舞台に若者たちがストリートアートを通じて成長していく様子を描いた映画作品「TAKI183」(2006年)を紹介している

また、大山さんは地下1階の旧Bunkamuraレコーディングスタジオで、「資料でひもとくストリート」と題し、ストリートアートに関する書籍や映像資料も展示する。今夏、自身が個人的に収集してきた約500冊のストリートアートの関連資料を公開する資料室「LGSA by EIOS」を渋谷・桜丘町に開設する予定で、今回の展示はその先行企画となる。

会期中には、東京オリンピック閉会式でソロダンスを披露したダンサー・アオイヤマダ氏によるパフォーマンスや、アーティストや専門家を招いたトークイベントも開催予定だ。Bunkamuraの未来を照らす新たなアート体験を、ぜひ現地で体感してほしい。

開催概要
  • 名称:Bunkamuraの未来を照らす新しいアート体験2025
  • 会場:Bunkamura館内
  • 会期:2025/3/13(木)~3/23(日)
  • 時間:13:00~20:00 ※最終日のみ~18:00まで
  • 料金:入場無料
  • 主催:渋谷ファッションウィーク
  • 共催:東急株式会社、Bunkamura
  • 公式: https://www.bunkamura.co.jp/event/lineup/20250313.html

開催場所

取材・執筆

編集部・フジイ タカシ

渋谷の記録係。渋谷のカルチャー情報のほか、旬のニュースや話題、日々感じる事を書き綴っていきます。