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【レポート】再開発の渋谷に流れる“スロウな時間” ──渋谷川で育つ小さなコミュニティー
渋谷ストリーム前 稲荷橋広場

【レポート】再開発の渋谷に流れる“スロウな時間” ──渋谷川で育つ小さなコミュニティー

「効率」ばかりが求められる都市。人は絶えず移動し、駅は更新され、高層ビルが次々と建ち上がる。便利で快適になる一方で、街の中に「立ち止まる理由」を見つけにくくなったとも感じる。

再開発が進む渋谷の中で、少し異質な空気をまとっているのが、5月16日・17日に渋谷川沿いで開かれた野外イベント「shibuya slow stream(シブヤスロウストリート)」だ。今回の記事では、16日のイベントの様子をレポートしながら、再開発が進む都市の中で「余白」をどう残し、どう育てていくのかを考えてみたい。

開催概要
  • shibuya slow stream vol.26 "rooted hope"
  • 開催:2026年5月16日(土)・17日(日)
  • 時間:12:00〜21:00
  • 場所:渋谷ストリーム前 稲荷橋広場
  • 料金:入場無料
  • 公式:詳細はこちら

会場は、渋谷ストリーム大階段前に位置し、渋谷川に面した「稲荷橋広場」。高層ビル群の足元にありながら、川辺の風や水の流れを感じられる空間だ。

渋谷ストリームの大階段下、渋谷川沿いの稲荷橋広場で開催された「shibuya slow stream」

渋谷川沿いで定期開催されている同イベントは、コロナ禍の2020年11月にスタート。年3〜5回ほどのペースで開催され、今回で26回目を迎えた。今回のテーマは「rooted hope(根付いた希望)」とし、土地や文化、人々の営みに“根を張る”ことの大切さを掲げる。

ディレクターを務める熊井晃史さんは、「『良い都市とは何か』という問いを立て続けてきました。今回は“rooted hope”ですが、毎回テーマを変えながら言葉を投げかけている」と話す。「ボキャブラリーを増やしていくことが、社会を豊かにし、良い都市に近づくことにつながると思っている。イベントは、やって終わりになりがちですが、都市開発もビルを建てて終わりではないはず。『良い都市とは何か』という問いを、イベントを通して問い続けたい」と語った。

敷居が低くて、奥が深い

会場には、音楽ライブやDJ、マーケット、ワークショップ、飲食ブースなど、多彩なコンテンツが並ぶ。この日は、沖ちづるさん、田上碧さん、食品まつり a.k.a foodmanさん、イルリメさんらがライブを行い、渋谷川沿いの空間をゆるやかに彩った。

左)階段や芝生に腰を下ろし、音楽ライブをゆったり楽しむ来場者たち 右)昭和のおもちゃが並ぶ「わなげボーボー(新世代アナログゲーム店)」を訪れる親子連れ

左)出演アーティストのグッズやアイテムを販売するショップ 右)「人生で大切なこと」を話すと値札の半額で購入できるユニークな「ピクニックフリマ」

アート古書やZINE、クィアカルチャー関連書籍などを扱う「wagamama books」、青空茶会「茶酔」、アナログゲーム店「わなげボーボー」、リメイクCDなどを扱う「Re:store」など、個性的なポップアップも出店。台湾スイーツや薬膳料理を提供する飲食ブースも並び、来場者が自然と長時間滞在したくなる空気を生み出していた。

wagamama booksを店主のアガさん

フィリピンと日本にルーツを持つ「wagamama books」店主のアガさんは、「本業はグラフィックデザイン。仕事の延長線上としてZINEや本を作っている」と話す。「自分の表現と街の空気がゆるやかにつながる場所」として、このイベントを楽しんでいた。

熊井さんは、このイベントの特徴を「敷居が低くて、奥が深い」と表現する。「奥が深いだけだと敷居が高くなってしまうし、敷居が低いだけだと浅くなってしまう。だから、子どもでも海外の人でも、誰でも自然に入ってこられる空間にしたい」と話す。その上で、「背景には、都市や文化への深い問いが込められていることも知ってほしい」と思いを語った。

渋谷の中心で、靴を脱いで寝転びながら思い思いに過ごす来場者たち

このイベントの魅力は、「何があるか」以上に、「どう過ごせるか」にある。会場には椅子や腰掛けられる場所が点在し、来場者は音楽を聴きながら本を読んだり、寝転んだリ、ご飯を食べたり、川を眺めたり、ただ、ぼんやり過ごしたりしていた。人混みや熱気を前面に押し出す大型フェスとは異なり、ここでは「何もしない時間」が自然に受け入れられている。目的を持たず、ただ街の中でゆっくり過ごす――そんな“余白”を楽しむ空間が広がっていた。

イベントを担当するディレクターの熊井晃史さん(左)と、東急・丹野暁江さん(右)

多様な人々の交流が広がる

東急で同イベントを担当する丹野暁江さんも「ターゲットは決めていません。みんながターゲット」と話す。

「近所のおじいちゃん、おばあちゃんが『歯医者に来たんだけど、何かやっていたから寄ってみた』と、そのまま座って楽しく塗り絵をして楽しんでいかれたり…。そういう偶然の居場所になってくれたらうれしい」

丹野さん自身も渋谷育ち。幼少期から渋谷の街に親しんできたという。

「子供時代から、渋谷という街は外から来た人たちが好きに振る舞えて、自由に表現をしたりしながら創られている感覚がありました。見たい景色があるんです。渋谷の縮図をつくっているような…。ここは私にとってsanctuaryだから訪れる方々になってもそうなる事を願っています。それがひろがると嬉しいですね。 そして渋谷はクリエイターや若い人たちが自由にチャレンジできるように在るべき。と考えるから、そういった場をここでもつくりたいと思っている」

似顔絵フォトマシーン「PHOTO BOOTH」を展開する若いアーティスト

実際、イベント運営には、PARCO内のクリエーティブスクール「GAKU」でキュレーションを学ぶ若いメンバーも参加。座学で学んだ知識を、実際の現場で実践する機会にもなっている。

また、会場を見渡すと、外国人来場者の多さにも気付かされる。運営スタッフや出店者にも海外ルーツを持つメンバーが多く、彼らとつながるカルチャーコミュニティーや、渋谷3丁目・東エリア周辺に暮らす外国人住民が、子ども連れで訪れる姿も目立っていた。

ベビーカーを押す夫婦や、小さなお子さんと一緒に楽しむ家族も

丹野さんは、「海外の人は外で過ごしたり楽しむことが好きですよね。楽しみ上手だし。だから、こうした風景を自然と楽しんでくれる」と話す。

国籍や性別、年齢、文化的背景を超えた小さなコミュニティーの輪が、回を重ねるごとに、水面に広がる波紋のように少しずつ広がっているという。

渋谷川で育てる、小さなビオトープ

“ 小さなコミュニティー ”を象徴する取り組みの一つが、渋谷川沿いで続けられているビオトープ活動だ。

渋谷川沿いの遊歩道にある、コミュニティーFM「渋谷のラジオ」スタジオ横のパーゴラ(屋根付きスペース)下に設置されたビオトープ

有志コミュニティー「Spiral Club(スパイラルクラブ)」は2023年から、渋谷川沿いの遊歩道「渋谷リバーストリート」で小さなビオトープを育ててきた。近隣住民や子どもたちも参加し、水辺環境や生き物を観察する活動を続けている。

イベント期間中には、ビオトープの観察や清掃、「良い川とは何か」をテーマにしたワークショップも開催。16日に行われたワークショップには、旅行中のオーストラリア人や、日本在住のポルトガル人、ベルギー人など多国籍な参加者約8人が集まり、日本語と英語を交えながら交流を深めていた。

Spiral Clubのメンバーの中村萌さん(左)と、小林七海さん(右)

Spiral Club立ち上げの経緯について、メンバーの中村萌さんは「気候変動や環境問題について、日本では気軽に話せる場が少なかった」と振り返る。「海外では日常的に話題になるテーマですが、日本では同世代と話す機会がほとんどありませんでした。留学から帰国した時、“まずは対話できるコミュニティーを作りたい”と思った」

誰でも参加できる、遊歩道にシートを広げて行われたオープンミーティングの様子

同じくメンバーの小林七海さんは、「環境の話は、政治やジェンダー、生き方の話ともつながっている」と話す。メンバーや参加者に海外ルーツを持つ人が多い理由については、「環境問題や気候変動に関心のある人は、英語で情報収集しているケースも多く、自然と英語を話せる人が集まりやすい」と説明する。

固定的なメンバーだけではなく、国内外の多様な人々が流動的に集まり、対話を重ねていることも、このコミュニティーの特徴だ。

本当に川と呼べるのか

気候変動や自然環境を考えるきっかけの一つとして始まったビオトープ活動。渋谷川は長らく、“街の裏側”のような存在だった。鉄道高架やビルの陰に隠れ、人が滞在する場所ではなかったが、2020年の渋谷ストリーム開業を機に、清流や水景の整備が進み、川沿いの遊歩道「渋谷リバーストリート」も誕生。現在は、都市の中で水辺を感じられる空間として親しまれている。

東横線跡地の再開発に伴い整備された「渋谷川」

一方で、中村さんは「渋谷川は生き物も少なく、コンクリートに囲まれている。“これを本当に川と呼べるのか”という問いがある」と率直に語る。

今回のワークショップでは、参加者と共に「良い川とは何か」を考えた。「生き物や植物が共存するエコシステムがある」「長時間ゆっくり過ごせる」「季節ごとの変化を感じられる」「水中の微生物の変化を楽しめる」――そんな意見が挙がったという。

「良い川とは?」をテーマに対話を交わす参加者たち。異なるバックグラウンドを持つ人々の多様な意見や価値観が、互いに刺激を与える

現状の渋谷川は、まだその理想には届いていない。それでも中村さんは、「私たちだけで川そのものを大きく変えることはできない。でも、“もっと豊かな川になってほしい”と思う人が増えれば、少しずつ変わっていく可能性はある」と話す。

そして、「まずは川に関心を持つ人を増やしたい」と続ける。

気温の上昇とともに増えた藻を除き、伸びた水草を間引くなど、ビオトープの清掃活動を行う参加者たち

ビオトープ内を元気に泳ぎ回るメダカたち。小さなエビやタニシも生息しており、季節によってはトンボが飛来したり、チョウが水を飲みに訪れたりするという

ワークショップでは、水槽の中のメダカや植物が入った小さなビオトープを1分間静かに観察したり、増えすぎた藻や水草を取り除いたりしながら、小さな水辺を介して、人と自然、人と人との関係がゆるやかに結び直されていた。

時折、遊歩道を散歩する親子連れや海外からの旅行者が足を止め、ビオトープを眺める姿も見られた。

都市に「余白」を取り戻せるか

渋谷川沿いは、かつて高架下の暗い空間が広がる、“渋谷のB面”のような場所だった。しかし、渋谷ストリームの開発によって暗渠(あんきょ)が開かれ、再び川が見える風景が生まれた。

渋谷駅南側に広がる「渋南エリア」では、渋谷川を軸に新たなまちづくりが進む。ハチ公前・渋谷スクランブル交差点側とは異なる、渋谷の新たな魅力を感じさせる風景だ

熊井さんは、「都会の真ん中に川が戻ってきたことには、とても大きな意味がある」と話す。

「もしここに川がなかったら、このイベントも今のように成立していない。川は風の通り道でもありますし、もしそれがなかったから息苦しくて、『ここに居たい』と思えないかもしれません。良い都市とは何か?を考えるためにも、水と人間の関係は、本質的に大事なテーマだと思う」

渋谷川の整備によって生まれた開放感や、自然との距離感こそが、この場所の魅力だという。

また、熊井さんは、「“賑わいづくり”という言葉はよく使われるが、単に人が多ければいいわけではない」とも指摘する。「人間だけでなく、植物や動物も含めて、自然が賑わっている状態こそ、本当の意味で豊かな都市なんじゃないか」と語った。

大規模再開発が進む渋谷では、回遊性や利便性が重視される一方で、“立ち止まる場所”や“余白”の価値は見落とされがちだ。本来、都市には急ぐ人だけでなく、少し休みたい人や、ぼんやり過ごしたい人のための居場所も必要なのではないだろうか。

渋谷川のほとりで行われていたのは、単なるイベントではなく、「都市の使い方」を少しずつ更新していく実験の場ともいえる。

「“良い都市とは何か?”と問い続けることが大事。その問いから、どんな面白いことや意味のあることが生まれるのか。たぶん、このイベント自体が、その実践なんだと思う」。

次回開催は11月7日(土)・8日(日)を予定している。

取材・執筆:フジイタカシ / 撮影:松葉理

開催場所