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駅前広告が支える街の運営費、渋谷がつくる“持続可能”な都市マネジメントモデル
渋谷駅周辺

駅前広告が支える街の運営費、渋谷がつくる“持続可能”な都市マネジメントモデル

渋谷駅前を彩る無数の広告群。その中でも公共空間上に設けられた広告から得られた収益の一部は、一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメントが活用し、清掃や防災、イベントなど街を支える取り組みに充てられている。公共空間を生かした広告を都市マネジメントに組み込むことで、どのように持続可能な仕組みを生み出しているのか。

公共空間を活用した、渋谷ならではの都市運営モデルを確立

渋谷駅前に立つと、いやおうなく多くの広告が視界に飛び込んでくる。それらは渋谷を訪れる人々に向けた商業メッセージであると同時に、街の景観を形づくる重要な要素の一つでもある。昼夜を問わず更新されるビジュアルは、まるで渋谷という街の動きを映し出すスクリーンのようだ。実は、こうした駅周辺に掲出されている広告の一部は、一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメントの活動を支える財源となっている。

広告を担当する渋谷駅前エリアマネジメントの礒本隆志さん(左)、柏木悠吾さん(右)の二人にお話を聞いた

「当法人の広告事業には二つの意味があります。一つは、街づくりを支えるエリアマネジメントの主要な収益源であること。もう一つは、広告を通して、皆さんに楽しさを感じていただけるような渋谷らしい景観を形づくることです」(運営グループ長補佐・礒本隆志さん)

渋谷駅前エリアマネジメントが関わる広告媒体は30近くにのぼる。代表的なものとして、ハチ公広場の「渋谷憲章シート」や「センターシート」、渋谷ストリームデッキの「目玉壁シート」、「渋谷スクランブルスクエアビジョン」、歩行者デッキのラッピング広告などがある。印象的な媒体も多く、「ああ、あの広告か」と思い当たるものも少なくないはずだ。駅前空間に溶け込むこれらの広告は、単体で存在しているのではなく、周囲の風景と連動しながら機能している。

にぎわいを生む広告が、その裏で清掃や防災活動を支えている

渋谷駅前エリアマネジメントは、駅周辺の美化活動や防犯・防災、景観づくり、イベント運営、情報発信など、幅広い取り組みを担っている一般社団法人だ。駅前の公共空間を活用した広告収益は、そうした活動を支える基盤となっている。

「主な使途は、道路還元とまちづくり還元の二つに分かれています。道路還元は清掃や維持管理、まちづくり還元は防犯・防災、落書き対策、イベントなどが中心ですね」(柏木悠吾さん)

公共空間における「案内サイン」のデザインや設置なども手がける。人の流れを整理し、安全で円滑な都市運営を支えている

こうして、渋谷の街を彩る広告は、企業プロモーションと同時に公共空間のメンテナンス費にもなっているわけだ。広告主の業種は、アニメや音楽、飲料、金融、ライブ告知など多岐にわたる。

「最近はアニメや音楽系が増えています。ただ、特定業種に偏るわけではありません。渋谷は発信力が高いので、渋谷以外の都市で開催されるイベントの告知をここで行いたいといった声もありますね」(柏木さん)

自由な表現と公共空間としての品位を絶妙なバランスで保つ

ハチ公広場の広告群。広告が、渋谷らしい景観を形づくっている

ハチ公広場の正面に掲出されている「憲章シート」と、その奥上部に広がる「センターシート」は、エリマネ広告を代表する媒体だ。これらをセットで“ジャック”することで、広場全体を一つの世界観で演出することができる。

「憲章シートとセンターシートをセットで掲出すると、遠景でもよく目立ちます。渋谷らしい、ダイナミックな展開ができる媒体です」(柏木さん)

そのほか、渋谷駅周辺には、公共スペースを上手に活用したエリマネならではの広告媒体が数多くある。

左)渋谷スクランブルスクエア外壁の大型デジタルサイネージ。都市の動きと連動するビジュアルが駅前空間を彩る。 右)渋谷ストリームデッキの「目玉壁シート」。印象的なフォルムで、駅前景観のアクセントとなっている

左)渋谷フクラスと渋谷サクラステージをつなぐ「渋谷駅西口国道デッキ」の広告シート 右)ハチ公広場の工事仮囲い壁面の広告シート

アニメや音楽コンテンツなどが広場全体を占拠するなど、渋谷らしく自由な表現が可能だ。ただし、それは無秩序な表現というわけではない。

「渋谷だから何でもチャレンジできると思われがちですが、公共空間なので品位は守らなければなりません。渋谷らしさと景観保全のバランスは最も難しいポイントです」(柏木さん)

人の流れへの配慮も欠かせない。人気アイドルの広告などは、撮影目的の人だかりが生じる可能性もあるので設置の可否を慎重に判断している。

「万が一、公共空間に危険が生じるような事態になれば、期間中でも広告を外すといった契約もありえます。こうした点はクライアントにもしっかりとご理解いただきながら進めています」(柏木さん)

比較的スペースに余裕のある「東棟連絡通路壁面シート」では、アイドルなどの写真が掲出されることも多い。その場合も、警備員の配置などを含めて対応を検討するという。

東口地下広場に広がる「東棟連絡通路壁面シート」には、“推し”のアイドルとの写真撮影のために人が集まることも

広告だけではない、都市運営を支える仕組み

ハチ公前広場には広告媒体だけでなく、観光案内施設「SHIBU HACHI BOX」も設置されている。2020年にオープンしたこの施設は、前身となる青ガエル観光案内所をアップデートする形で、渋谷駅前エリアマネジメントが道路占用許可を取得し設置したものだ。運営は渋谷区観光協会が担い、観光案内や街の情報発信を行っている。広告と同様、公共空間を活用した取り組みの一例といえる。

左)ハチ公前広場にある観光案内施設「SHIBU HACHI BOX」も渋谷駅前エリアマネジメントが設置。公共空間を活用して街の魅力や利便性を高めている。右)礒本さんが手を向けているのは、観光案内所に掲出している「渋谷駅周辺のトイレマップ」。外国語にも対応しており、観光客向けのきめ細かいサービスもエリマネが支えている

さらに東口地下広場にあるカフェ「UPLIGHT COFFEE」も、渋谷駅前エリアマネジメントが展開する施設の一つだ。

東口地下広場(B2F)にある「UPLIGHT COFFEE」(左)、B1Fにある公衆トイレとパウダールーム(右)。公共空間活用の一環としてカフェと公衆トイレも整備し運営している

「都市再生推進法人の指定を受け、都市再生特別措置法に定める道路占用の特例を活用して整備しました。通常であれば設置が難しい場所ですが、渋谷駅前エリアマネジメントだからこそ実現できました」(礒本さん)

UPLIGHT COFFEEのある渋谷駅東口地下広場(B2F)フロアを、360°囲む形で広告ジャックも可能

このカフェは単なる飲食店ではなく、公共空間の活用を広げる取り組みの一環でもある。出店料や売上の一部が渋谷駅前エリアマネジメントに還元される仕組みとなっており、広告以外の収益源としても機能している。

そのほか、ステッカーや落書き等への対策の一環として、アートで柱をカバーする「TYPELESS」や、無機質な工事仮囲いに鮮やかな彩りと躍動感を与えるアートプロジェクトの取り組みなど、街の景観づくりにも力を注いでいる。

京王井の頭線渋谷駅前の柱をキャンバスとして、「公募型のアートプロジェクトTYPELESSを展開している」と柏木さん。落書き対策と同時に、若手アーティストのチャレンジの場として機会を創出しているという

JR渋谷駅西口を出た通路沿いの「渋谷スクランブルスクエア西棟新築工事」の北側仮囲いで、「~Shibuya Culture Jungle~多様性を輝かせる」をテーマとしたアートプロジェクトも展開中。重い自閉症と知的障がいがあるアーティストの太田宏介さんが描いた作品を、壁面に掲出している

渋谷再開発の先へ――変わる駅前空間と広告のこれから

再開発が進むなかで、渋谷駅前の空間は今後も変わっていく。広場の形や建物の配置が変われば、広告のあり方も当然影響を受ける。渋谷駅前エリアマネジメントが関わる広告スペースも、例外ではない。

「事業者や有識者と調整しながら、将来を見据えた持続的なエリアマネジメント活動を行うために必要となる媒体の種類や数を検証しています。景観と収益のバランスが課題です」(礒本さん)

一般社団法人渋谷駅前エリアマネジメント自身も設立から10年を迎え、次の方針づくりを進めている。

「安定した収益源として広告は不可欠です。その上で、より多様な表現ができる媒体づくりに貢献していきたいと考えています」(礒本さん)

2034年度の最終完成を目指し、大規模な再開発工事が続く渋谷駅

駅前広告の華やかさの裏側で、街を整える日常の営みがこれからも続いていく。派手さはないが、街を維持するために欠かせない取り組みだ。そう考えると、渋谷駅前の風景は少し違って見えてくる。

取材・執筆:二宮良太 / 撮影:松葉理